虚像の砦
自らの信念に基づき、決断し行動する。その結果、そこで何かの事件に巻き込まれたとしても、それは自分自身で落とし前をつければそれでいい。/自己責任とは、そういうもんだ。(P.292)
なかなか、すごい本です。話しそのものも面白いのですが、これはある種の歴史小説です。この時代も一つの時代と捉えれば、オウム真理教事件から買収劇のごたごたまで特定の放送局に起こった事象を上手につなぎ合わせ、その裏面を整合的に一つのドラマに纏め上げています。驚きです。
と、同時に放送に関しての考えや制度などもよく書き込まれていて、私が別のコラムで書いたような、日本の放送の構造をよく伝えています。
自分も、ちょっとはその業界にいたので、
「俺たちの絵は、あんたらの嘘の道具じゃないんだ。テレビは映像さえあれば、それでいいんじゃない。映像が正しく使われるように、何で徹底的に取材しないんだ」(P.209、重田カメラマン)
なんかは、実際に、時系列のあわない二つの絵を上手につないでひとつの時系列にしたことがあってそのとき、ちくりと言われた経験があります。それにしても、テレビって難しいメディアだなと思います。
人に笑いを届けてホッとさせるのもテレビ。こうして今何が起きているのかを、現場からダイレクトに伝えるのもテレビ。どっちも、テレビの存在意義として、俺たちが忘れてはならないことだ(P.316)
ぜひ、この本を通じて、テレビってもんを、一度みんなに考えてもらえたらなとも思いました。
当然ストーリーそのものも面白いので是非手に取ってください。
「俺たちは、バカ殿の太鼓もちじゃなねえんだ。ニュースをいつ流すかまで、教えを請うつもりはなえ!」(P.119、風見)
自然の中では、人の命なんてちっぽけなものだ。だが、その命を想ってくれる誰かがいるのであれば、その命は大切にせねば。(P.346)
「何を言ってる。俺たちジャーナリストは、おいしい情報ときれいな女には弱いんだ」(P.349)
母が言う「偉くなる」とは、きっとこういう事を怖れずに実行することなんだろう。(P.485)