王莽

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵に同じ。
遠く異朝をとぶらえば、秦の趙高・漢の王莽・梁の周伊・唐の禄山.....

と、平家物語の頭に出てくる王莽が主人公の歴史小説。宮廷陰謀系の歴史小説がお好きな方には結構お勧めですが、血沸き肉踊るような合戦ものが好きな方には退屈かも。個人的には面白かったというのが読後感。

よく合戦ものの歴史小説では、「孫子読みの孫子知らず」的な無能な将が出てきて軍を滅ぼしてくれますが、本書はどちらかというと主人公が「論語読みの論語知らず」というか、「四書五経読みの四書五経知らず」というかそういう君主が軍どころか国を滅ぼすという話です。
なんというか、コンサルタントが社長をやるときの悲劇ともいえましょう。周という国の統治のベストプラクティスをたくさん読みすぎてその通りやろうとして、制度の導入失敗を繰り返します。まさに、その繰り返しっぷりは、コンサルタント的な発想を持つ秀才社長が、ベストプラクティスの本を読んでその通りのIT導入をして爆死を繰り返すさまを見ているようです。なるほど、本書で王莽を支援している商人が、王莽のことを「秀才」とおだてたのがよく分かります。

そのほかにも読み応えのあるシーンも少なくないので、一読はお勧めできます。さすが、漢王朝を一瞬とはいえ中断させ別の国を作っただけあって主役をはれるキャラクターです。