ヒゲのウイスキー誕生す

まさに、日本のウイスキー史そのものといっても良い。それほど、ニッカ創業者の竹鶴政孝の人生は、日本でのウイスキー作りそのものといってもいいほどのもの。

本書は、そうした竹鶴の人生をコンパクトにまとめた良書。竹鶴氏の足跡を丁寧にまとめているが、大変読みやすく、竹鶴青年の半生をまとめた一つの戦国歴史小説ならぬ産業歴史小説。

僕はよく、このニッカ創業の歴史を、ベンチャー志望の安直にお金儲けに走る人に語る。
それは、ウイスキーというすぐに答えの出ない、とても難しい商材と、気長にかつ力強く戦いつづけたニッカというベンチャー企業そして竹鶴という起業家は、今日のあまりに短期間のリターンの議論ばかりする起業家に本当に学んでもらいたいから。

それにしても、案外、ニッカが大日本果汁の略で、その昔はりんごジュースを作っていたというのは知っていても、それ自体も赤字で苦戦に苦戦を重ねていたというのは案外知らなかったりする。「ニッカはウィスキーができるまで果汁で食いつないでいた」と僕もよく言うけど、実は、果汁でも食いつなげていなかったというのが真実。

なんたって、ウィスキーが本物志向なら、りんご果汁まで本物志向で無加糖だったので、不人気だったとか。全くどこまでも大衆迎合しない会社であったようだ。
この本物を志向して苦しみながら作ったのは、今の日本のウイスキー文化でありヒトがヒトとして生きていく食文化である。
こうした理想と気概を以ってしてこそ、起業に値する事業でもある。理想を形にするまで潰れぬために金が必要なのであって、創業者が安楽する利益を得るために金が必要なのではい。
そのことをよく教えてくれる日本の起業史に残る企業の一つだ。

それはさておき、ニッカという会社とはご縁があって、創業前にネットで社内報用の「ニッカに望むこと」というテーマの懸賞論文が募集されていて、それに応募したのが、紙印刷される物書きの始まりだったりする。

ちなみに、僕の書いた懸賞論文は、「21世紀のニッカ戦略のあり方」というタイトルで「ニッカは大衆迎合するな」と書いたので、よっぽど受けがよかったらしく、社内報と株主向けの業績報告書に掲載されたのでした。
そんなこんなのご縁のある会社ということもありますが、ここのモルトは今でも一番好きな酒の一つです。

是非これを読んで、ジャパニーズウイスキーをよりおいしく飲みましょう。