少しでも多くの人にちゃんと食って行ける働き口を用意してやること―それが実業家の仕事であり、政治家の使命だ。実業家たちが死物狂いになってそうしないから、貧乏人が残ってしまう。(P.205)

そんな気概のある経営者はどの位居るんでしょうね。消費者と株主の方は向いているけど働き口を作ることに価値を見出していない経営者は昔からいるんでしょうね。ただ、他方で、こういう気概のある経営者の会社を、マスコミの簡単なプロパガンダであっさりつぶすように行動してしまう消費者というか大衆もまた昔からいるんだなと。
昭和恐慌の引き金と言われたコメ騒動の元凶として語られる鈴木商店のお話しです。と言う風に私ら習いますんで

学校で習ってきたという孫の澄んだ眼の色を前にしては、老婆はどんな説明も空しいことを知らされた。(P.17)

と、当時の当事者が事実と違うと思っても、全くもって反論の余地のない状態なのでしょう。変な話、そもそも鈴木商店って商店自体なんのことやらと言う気分です。どんな悪徳な時代劇における越後屋風な何かしか思い浮かびません。ところが

外国で作った物をさらに他の外国に売る。第三国間貿易は、鈴木がはじめ、鈴木のお家芸となった。(P.74)

という、新進気鋭の颯爽とした商社で、三井三菱を圧倒していたという組織。そりゃ色々イメージも変わります。著者は

わたしは、<鈴木が米の買占めをした。だから焼打ちされた>のだという事実の単純な証明が欲しい。(P.23)

と言うところから始めます。そこには、鈴木商店という実に近代に立脚したビジネスストーリーが横たわっています。しかもものすごく素朴な感じで。同時代人の星一の伝記を思い出します。

「鈴木は悪いことなんぞしていない。いつか、きっとわかるんじゃ」(P.148)

なんて実に共通項。分かった頃にはつぶれているってのが日本的。悲しい限りです。マスコミに単純のイメージだけで踊らされる、こんなあほな国民にならないように注意していきたいですね。ちょっと読みにくいですけど、一読の価値ありです。

「人間というものはね、何か間違いを仕出かして初めて慎重に注意を払うようになるものだ」(P.94、西川支配人が高畑に)

「田舎の草深い処で暮らすも一生。神戸のような万国の人を相手にするところで暮らすも一生。同じことなら小生と共に神戸で悪い事をして暮らそうではないか」(P.95、直吉が西川に)

「けちと始末は、ちがうんやで」(P.14、鈴木ヨネ、成人した自分の子供に向かって)

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