ソーシャルブレインズ入門

村落がとりうる穏当な解決方法としては、外来者をどこかの家系に取り込むという方法もありうるでしょう。(P.125)

ええ、穏当な解決手段で取り込まれたような気はします。でも、好き勝手やってますんで、

いったんできあがった社会構造を安定的に運用しようという保守的な力は、あらゆる時代、あらゆる地域に存在する普遍的な圧力だと思います。(P.122)

という保守的な力と日々戦っております。ま、個人的雑感はそのぐらいにして。
非常に興味深い一冊でした。新しい社会の読み解き論です。当然新しく荒削りですが、多くの示唆を与えてくれます。特に、個人的には、人の立場や認識や意図は重ね合わせで記述できると思っていたので

「自己と他者の脳が作る社会を前提として、その社会に組み込まれた状態の脳の仕組みをとらえる」(P.16)

それぞれの人が持っている無数の社会が重なり合って、社会が出来ている。(P.41)

という、社会の方を重ね合わせで記述するという発想は反対向きなのですが、なるほどと思わされました。
また、ヒューマニングの研究をしている物としては、お金ではない人のつながりのベーシックな仕掛けの記述を書きあぐねていたのですが、

リスペクト(無条件な存在肯定)は、発する人から受け手への一方通行の構造を持ちます。(P.209)

リスペクトを前提としない経済優先型の行動戦略がもたらす利益が、認知コストの削減から来るメリットと比較して大きなものがある(P.213、認知コストが下がるにもかかわらず、個体間リスペクトが広まらない理由)

気をつけておかなければならないのは、リスペクトの欠如が与える影響は短期間では出てこないことです。(P.214)

という、リスペクトの概念で上手に記述されています。細かいことを言えば色々あるのですが、実証的な積み重ねの上での記述のアイディアというのは、本当に参考になります。
他にも色々役立ったのですが、今一自分の方が消化しきれていないので、書評はまた再読してからという気分です。

他者との関係に応じて行動を切り替えないということは、実際にどういうことになるでしょう。これは、一言で言うなら、「空気」を読んだ行動が取れないということです。(P.43、社会的ゾンビ)

社会が与える行動制限は、一見わたしたちの生活をつまらないものにしているように見えますが、実はその平板な毎日の中で他者とつながる喜びとのトレードオフになっている(P.53)

認知コストという脳内のエネルギー収支バランスに、ヒトのさまざまな社会行動を説明するポイントがあるのではないか(P.134)

問題を考えることが脳内コスト的に無意味であるならば、人は思考を停止してムダな脳内コストをかけることをやめるという説明になります。(P.151)

ヒトから倫理観を奪うのは社会的権威という単なる記号であるという点が、さらに希望を失わせるように思います。(P.155)

わたしたちは、本質的にきわめて脆弱な倫理観と、無意味に保守的な傾向を持った生き物なのだといえるでしょう。(P.157)

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