墨攻

「ふん。守るということは敵を攻めることとおなじではないか」(P.20、城主の息子)

歴史小説の白眉。たとえ著者自身が
『墨攻』は史実でも事実でもなく架空の物語であり、無論のこと歴史小説ではない。(P.157、文庫版あとがき)
と言っているとしても、歴史小説の白眉といわざるを得ない。歴史の設定を生かし、そこから矛盾無く、そして実在感ある形で構築されるフィクションこそが歴史「小説」であるべきなのだ。歴史のお勉強の教科書ではない。歴史を舞台にした優れたフィクションこそが歴史小説なのだ。
そういう意味では、墨家という歴史上名称以外ほとんど知られていない、思想集団が生き生きとわれわれに伝わってくる。それがその時代に記述されていない事実と異なったとしていても、それはそれでかまわない。大切なのは、実在感なのだ。
そういう意味で、本書以上に面白い歴史小説は少ない。解説よりも何よりもぜひ手にとって読んでもらいたい良書だ。

「物事が神妙のうちに運ぶというのは一面で功を誤ることになるのだな」(P.8、墨翟)
しかし、革離はやらねばならないと決意していた。彼のプライドは自分ならそれができる、と伝えていた。(P.49)
墨者は確かに守ることしかしない。だが、その守りが彼ら最大の攻撃なのかもしれない。(P.72)
『何事も教科書どおりにはゆかぬ』(P.139)

あ、映像化もされているんですよね。まだ見ていないけど。見たいなぁ。