後宮小説

「哲学ってなんですか?」/「これまた難しいことを聞く」/だが先生はこれにもあっさり答えた。/「生きることだ。ただし、私の意見にすぎない。お前さんの哲学はまた別のものでなくてはいけないよ。真似していいのはわずかな間だけだ」(P.106)

第一回ファンタジーノベル大賞受賞作。 この作品の紹介に必ずつく評価だ。あとは、アニメ「雲のように風のように」の原作。この賞に、当時、学校の文芸クラブに属していた僕としては投稿しようかしらなどと嘘でも思ったことが恥ずかしいぐらいの名作です。権威なぞくそっくらえと思っている私にしても、この作品には脱帽です。ちなみに、この作者一発屋で終わるどころか、その後も墨攻など優れた小説を連発してさらに驚かせていただきました。更に脱帽。

反乱と宮廷の二つのシーンで主に展開されていくこの小説。コメディなのかシリアスなのか

「挙兵たあ何だね」/「退屈を紛らすものだ」/「そうか。そいつはいい。渾兄哥それをやろうや」(P.203)

というふざけた設定の反乱。でも、大真面目にせめていくと

理由のない反乱を起こされることほど、始末に困るものもないであろう。(P.204)

となり、話がこじれにこじれる。が、という中で反乱自体は結末。

「兄弟は天下を取ろうと思っているのか?馬鹿なことを言ってないで、そのへんの銭を拾い集めて帰るんだ。また沚水に寄って遊ぼうや」(P.258)

おぃおぃって感じではある。がそこに並行する後宮の展開はそれはまた面白い。

この娘が皇太子の好みに適うかどうかは、真野のおそらく生涯最後の博奕となるであろう。(P.29)
「後宮の規矩などは、とろけるぐらいに軟らかく考えねば話にゃならん」(P.60、案内の老婆)

という中で、ばくちで連れてこられた主人公がとろけるように適当にルールを解釈した結果、反乱軍と大合戦に。実に面白いですよ。どなたにとっても一読の価値ある文芸作品です。

「女の腹からすべての真理は生まれるのだ。それが答えだ」(中略)/「そして、後宮は素乾国の子宮だ。この国の真理はすべて後宮から生まれる」(P.139)
「昔から敵が多いのは、くそ真面目なやつかしからずんば大悪党だ。俺のようなやつには敵もいないが友もいない」(P.223)