武王の門
「不運は嘆くまい、泰季。天の定めるところに生きて、自らに恃じなければよいのだ」(上P.60)
北方謙三の小説から一つ気に入った句を引用せいと言われると、いつも迷う。このBLOGはそういう意味では適当なのでその時々の気分で選べばいいだけなんだけどさ。
彼の歴史小説の中では好きなほうに入ります。林蔵の貌と同じような野心を抱いた人の物語。オチは日本という国体が守られるというなんだけど、島を一つの国にしようというもの。舞台設定や歴史の時代のチョイスがマニアックで、個人的には好きなタイプの歴史小説です。
バカの一つ覚えみたいに、戦国時代と明治維新で飽きるほど歴史小説を書いている人が多いなかで、非常に挑戦的で好感が持てます。
引用を一つひとつに感想を書こうと思うけど、なんだかそういう解説展開じゃないので、メモを残して終了。ちなみにオススメ歴史小説です。はい。
「先頭に立つために、この地へ参ったのよ」(上P.53)
「勝ちなのか負けなのかわからぬ戦など、いまこの時になんの価値があろうか」(上P.70)
「許してよいことと、ならぬことがある。許してならぬことを許すのは、生きながらの死と同じではないか」(上P.128)
武士が無節操というのではない。それぞれが必死で、ただ一方的な忠節を当てにする方が甘いのである。(上P.165)
「婆娑羅者といわれたこの義弘、働く場所をついに見つけ申したぞ」(上P.178)
「あのお方は、戦のために生まれてこられたのではござらぬ。戦はお館様のなさるべきこと。あのお方には、夢を担っていただかなくてはなりません。」(上P.294)
「ひとつだけ申しておく。自らのための商いはいたすな」(上P.317)
「ならば、もっとましな幻を追おうではないか」(上P.347)
「こういう考えは、儂を支えてきてくれた、多くの人間の夢を踏み躙るものであろうか」(上P.446)
「燃え尽きたと思っても、そうではない。人とは、面倒なものよ」(下P.59)
「死ぬことで、矜持を守れると思うな、佐志祝。なにによって矜持を守れるかわからぬなら、わかるまで生きよ」(下P.82)
「九州は九州の民のものよ。儂のものになったなどとは、さらさら思わぬ」(下P.131)
「できるかもしれぬ。できるかもしれぬなら、渾身の力でやってみるのが、儂に与えられた生き方のような気がしてきた」(下P.146)
「自分がなんなのだろうと、私はしばしば考えることがあります、。生きているひとりの男。そういう答えしか出てきません」(下P.156)
「それに、海が好きなのだ」(下P.192)
「みんな大きゅうなって、それがしだけが付いていけません。」(下P.209)
「都竹殿は、自分で星を作られた。私はそう思います。一度作りあげた星は、簡単には捨てることがでいないでしょうが」(下P.244)
よく生きている。いつも思った。生かされているかもしれない、とも思う。(下P.264)
「九州がどうなろうと、それは父上の夢でございます。私には私の夢。竜王には竜王の夢。それでよろしいのでしょう。脈々と、夢を抱く血は流れております」(下P.305)
「人の幸、不幸は較べられるものではありません」(下P.368)