水に描かれた館

「人間は究極において他人をごま化せても自分をごま化すことができない」(P.342)

本当に。自分をごまかすのは難しいと思います。まぁ、僕のような幼稚なやからでは他人を欺くことも怪しいですけど。
崖の館の続編。何も知らずに、雪の断章の次に買った本です。そのときの体験から、崖の館を読まずとも小説としては成立していて読めるとは思います。でもですね、改めて読むと、崖の館を読まないとやっぱり理解できないのではないかと思います。今度は、前の登場人物から一部へって(崖の館を読む楽しみなので、誰かは読んでのお楽しみ)、こんど新たに増えています。

「奥さま、これは日本を代表する陶器なのです」/「お皿に変わりがないじゃないですか」(P.21、柿右衛門をめぐって)

などと、館の女主人とやり取りをする鑑定家ども。それでも、視点は相変わらずぽわんとした涼子ちゃん。少しは進歩したっぽいけど、大差なし。トリックと推理の展開については、毎度のごとくちと強引だけど。

でも、まぁ、僕としてはストーリーよりもその思想に目を引かれます。

「現代人の老人に対する考え方を軽蔑しています。いたわらなくてはならないとか、楽しませてやらなくてはならないとか、それはあまりにも身のほど知らずの暴言ではないでしょうか」(P.267)

なんかは本当にそうではないかと。あと、

天命がつきないうちは死ねない(P.150)

と言うのは神を信じていないけれども信じていたりします。(参照コラム)
あと、こんなのも。

結婚したら、妻が内助の功をするように、夫は家政のよきホストであるべきだ。(P.112)
参照コラム

結構この人の思想には毒されているんだろうなぁと。思春期にどっぷり読んだしな。しょうがないか。残りはメモのまま。

「人生の何たるかは万人に孤独という教師がついて初めてわかります」(P.69)
「一生懸命生きている者を嘲笑するのは心のナイフですね」(P.95)
人に何を言われようと何事かにかじりつた経験をもつ人こそ、人生とはまあこんなもんだろう、と笑って死ぬことができると思う。(P.192)
善人も悪人もこの世には存在しない。(P.224)