音楽の光と翳

「私には時々、お前たちのお母さんのことがよくわからなくなるんだよ」(P.18)

はい。僕もいっつもよくわからなくなります。とても著者のお父さんの言い草が実感できます。
前の主題と変奏と同じ人とは思えないコラムです。前の偏屈じじいっぷりはどこへやら。さすがに処女エッセイ集と最後のエッセイ集では、随分、感じが異なります。これなら、若造でも少しは素直に耳を傾けようというものです。特に、

この歌う楽しみを通じて、私が、両親や兄弟たち、いや、もっと広く、自分に先立つ世代の日本人たちにつながり、同じ「文化」を共有するための手段を身につけつつあったという事実である。(P,118)

こんな文化論と歌の教育なんてのは、結構考えもしなかったけど重要なんだなぁと。主要五教科なんていって、それ以外の教科の重要性を見下してはいけないなと。
他にもいい感じのエッセイが多いので、メモは消さずに残しておく。

音楽にも「色」があるのである。(P.82)
私たちはどれくらい真剣に他人のことを理解しようと努力したり、自分をわかってもらおうと望んだりしているだろうか?(P.91)
私たちみんなにとって、自分で自分の出している音がどんなものかを、正確にきく耳を養うくらいむずかしいことはない。(P.183)