チップス先生さようなら

可笑しさとかなしさが、波のように後から後から思い出の中に去来して、チップスは涙をこぼしてしまうのだったが、そこにウィケット夫人がお茶を入れてくれることがあると、彼女はチップスが笑っているのか、泣いているのか、判断に迷うのであった。チップスだって同じことだったのである。(P.12)

老教師の回顧を中心に、ひとつの伝統のある学校の姿とイギリスの情景を描いた一作。
どう面白いのかといわれるととっても困るのだけれど、淡々と回想シーンの積み重ねだけではなしが進んでいく。その前までフランスの小説で発狂しそうになっていたせいかもしれないけれど、情景やシーンやカット割りが簡単に思い浮かんで、ストレスなく読める。
それでいて、冒険活劇というわけでなく、静かに、赴任、結婚、死別、退職等々、ある意味ではつまらぬ老教師の一生を描いているだけなのかもしれない。でも、こういう教師の姿ってのがかつてあったんだということを、知る上でもいいんじゃないかな。
そんなにボリュームのある本ではないし、カナも丁寧に振っているので、小学生から大人まで楽しめる一冊。家族で廻し読みして感想を交換できるかな。楽しみ。