芸術原論

あらかじめの項目に沿ってだけ物件を集めても面白くはない。それは単なる正解の採集であって、足の努力だけで出来るからだ。(P.252)

そうそう。黒いカラスだけを狙って採取して、「カラスは全て黒い」という命題の検証にはならんのよね。あくまで、色々なものを採取した結果、もしくはポパーが言うように黒くないカラスを積極的に探すことによってのみ、価値のある命題が生まれるんよね。
で、トマソンの赤瀬川氏のかなりまじめな芸術論文集。といってもそんなにまじめではありません。あくまで、超芸術トマソンと比較してのはなし。
個人的には、こっちのほうが読み物としては面白いと思う。
それに芸術、というわくを離れても、その関心と射程は、非常に読み手を捉えるものがあるように思える。
読み捨てるにはちょっと惜しい一冊かな。

自分だけが特別に自分であるということが、どうにもわからなかったのである。(P.4)

生産性を逸脱しながら、芸術の創造をも忌避するところが、やはりこの世の中のどん詰まりを示すようで、溜息が出るのである。(P.52)

それは壊れないし、壊したところに快楽がない。というか、壊したあとに新しい未来が予感できない。(P.133)