ドクトル・ジバゴ

「マルクス主義は、科学であるにはあまりにも自制がたりないと思いますがね」(上P.449)

ロシア革命という内戦の混沌をジバゴとラーラの生涯を描くことを通じて描いた小説。とはいえ、旧ソ連時代はロシアでは基本的に発禁本だったとか。確かに、内容的には革命万歳じゃないし、マルクス万歳でもないから、支配を締め付けるという意味では、こんなもん流布しちゃうと困ったんだろうな。
混沌の中もがいて生きる人間をよく描いている。とはいえ、いわゆる戦争悲劇小説という感じでもない。なんだか、状況が混沌として、混沌の中で人間が迷って迷っておかしな行為をしてしまう、心の変遷が良く見える。

たえず反抗と謀反をくり返しながら、彼女は運命を自分の思うままに作り変え、新たな人生をはじめようとして、必死にあがいているのだ。(上P.161)
彼女が愛しているのがおれじゃなくて、おれをだしにした自分の崇高な生き方だということは見えすいている。(上P.189)
「社会全体にひろまったこのまちがった思いこみは、だれかれなしに取りついて、取りついたが最後、金輪際離れようとしないのね」(下P.229)
「時代遅れの人間に見られたくないばっかりに、何よりも大切なものを裏切ったり、嫌でたまらないものを賛美したり、わけもわからないことにうなずたいたりしているんだわ」(下P.280)

まぁ、状況に流されていないつもりでも流されちゃう人間という存在のはかなさ。時には自分を客観視しないとね