政に頼らず官に依らず―恐慌を生き抜いた男・武藤山治の生涯
自分の扱ひ又は製造して居る品物が、多くの人々の幸福に関係するものであると思へば、怠けたり、又は悪い品物を供給することはできぬ。(P.176)
鐘紡の元社長の武藤山治の話。歴史小説というよりは、その昔やってたテレビ番組の「知ってるつもり」って感じの本。でも、その人物に関して面白いことは面白い。
特に、政治と産業の結託ぶりは今も昔も変わらない。違うのは、代表する大企業がわが、その結託ぶりを非難する勇気がなくなったことぐらいだろう。武藤はその辺は間違えなくえらい。
吾国民が自分等の納める金の御裾分けを喜ぶ愚を悟り(P.175、悟っていないが早晩そうなるとの期待)
「苟も損益勘定を要する業務は一切政府の職務と為さざること」(P.157)
「政府が委員会とか調査会などこしらへるのは......いきなり政府案として提出する前に、各方面の意見を徴したといふ、いはば裏書人に利用するために過ぎない」(P.142)
其金は誰の金か。国民中の下級の人々が郵便局に貯金した金ではないか。(P.275)
全くもって、どっか現代で聞いたような話だ。情けない限りだ。そして、その政治の舞台では結局活躍できなかった。しかし、経済の現場では、すばらしい理念の下、目覚しい活躍をする。
武藤は日本で初めて広告代理店を始めた人物でもある。(P.38)
なんと、その始まりは広告代理店。案外、星一もそうだが大きな仕事をする人はまずは情報系の仕事をするものなのかと。
実業とは、虚業に対し、真面目に働く者の仕事の総称である。(P.167)
実業に携わるものは武士にも劣らぬ誇りを抱き、企業を興すことで文明を創り上げる自覚を抱け(P.53)
「自分の興した事業の尻拭いは自分ですることが資本主義の強み」(P.32)
と同時に、実業をしない経済人には手厳しい。
「投機や相場で儲けたいのなら、初めから相場師になればよい。そんな人間に工場経営する資格はなく、実業人失格だ」(P.125)
世の中で金を儲けた人で、世の中の厄介にならぬものは一人もない。(P.176)
そして、市民社会に関して夢を抱いて実業をしていく。
殖産興業の貢献者は、利益を得ただけ責任は重いと主張したが、その責任とは健全な市民社会を創ることであった。(P.12)
一人ひとりが自覚的で自立した近代的市民として生き、彼らの力が集まって市民社会が形成されていた(P.162、英国は)
でも、金がなければ何も出来ないことを知る人でもあったりする。金がないとダメね、ってのは肝に銘じるか。
色々心のうちに理想を持って居りましても、会社が貧乏の内はどうすることも出来ない(P.79)