オープンソースワールド

人が金をもらわなきゃ何もしないと思うってことは、ほとんどすべての人間活動を否定するに等しいものね。必要だからつくる。おもしろいからやる。あたりまえのことだよねえ。(P.222、エリックレイモンド)

NPO経営者必読書です。
「何だ、オープンソースね、ふふん」と思って読み返して、売っちまおうと思いましたが、完全に気が変わりました。
たしかに、この本の終わりの方に出てくる
ボランティアやNPOの活動は、「行政におけるオープンソース指向」だと言うことができるだろう。(P.334)
はどうかなぁ、と思いますが(この視点も重要なのですが)、実は、この本全般におけるソフトウエアを事業と読みかえると、オープンソースの戦略は、まさにNPOにおける事業展開の優れた戦略そのものです。
伽藍とバザールなんて特に名文。絶対読むべき。

コミュニティ形成を始めるときには、まずなによりも実現できそうな見込みを示せなきゃならない。別にそのソフトは特によく書けてなくてもいい。雑で、バグだらけで、不完全で、ドキュメント皆無でもいい。(P.94、伽藍とバザール)

コミュニティをNPO法人に、ソフトを事業に書き換えれば、法人をはじめるときの条件がわかる。そして、そのあとは、無理に成長戦略だの、利潤形成段を考えるよりも先にやることはこれだ。

きちんと育てれば、ユーザーは共同開発者になってくれるんだ。(P.78、伽藍とバザール)

その、共同開発者(理事だったり事務局だったり)は、その事業を触るが、普通とはちょっと違う。自分が主体となって事業を改良していく。ここが重要なのだ。公開の原則なのだ。とはいっても、たださらし者にし、秘密を垂れ流すという意味ではない。

公開するということは、公開して、それを見てみんなが改良してくれるってことがあってはじめて成り立つ話です。(P.213、山形浩生)

ではさらにリーダーのやるべきことは何か。

客観的にみて正しいときにはこいえる人物であってほしい:「うん、たしかにそれは、僕のバージョンよりうまく動く。そっちを使おう」。そしてその際には、しかるべきところにクレジットを与えてくれる人物であってほしいんだ。(P.190、ノウスアフィアの開墾)

こういう姿勢を持って、共同開発者を鼓舞することだ。そうすることによって、細かな共同開発者のアクションや個別の才能が生きてくる。

だれかが問題を見つける。そしてそれを理解するのはだれか別の人(P.82、伽藍とバザール)
いいアイデアを思いつく次善の策は、ユーザーからのいいアイデアを認識することである。(P.87、伽藍とバザール)
世界のために書いているんなら、顧客には耳を傾けなきゃ―かれらがお金で支払ってるんじゃなくても、これは変わらない。(P.92、伽藍とバザール)

そうすることで、働き方も変わってくる。

実際のソフト開発者ってのは、お金で横っ面はられて自分では要りもしなし好きでもないようなソフトを一日中シコシコ書いていることがあまりに多いんだ。(P.75、伽藍とバザール)
自薦のボランティアをつのったほうが、ほかのことをしていたい人たちをビルいっぱい集めて管理するよりも安くて効率がいいことが多い(P.104、伽藍とバザール)

というような、新しい組織論になる。パートでもフルタイムでもどっちでもいい組織形態だ。何だか安く人を使って、値引きで勝負の組織なんだろうと思われがちだが、実は顧客サイドに対してもコストはかからない。商品の価値は値引きとかそういう観点ですらないのだ。

オープンソース・プロジェクトの複雑さとコミュニケーションのオーバーヘッドは、ほぼ完全に、参加している開発者の数の関数になる。ソースなんか見ないエンドユーザーをいくら抱えていても、コストは実質的にゼロだ。(P.250、魔法のおなべ)

そんなので、儲かるのか(生計が立つのか)という声が聞こえてきそうだが、実際に

時間はかかっても市場はそれなりに評価する力を持っている。(P.225、エリックレイモンド)

というところで、長期的にはやっていける。で、最後のリーダーの重要な仕事。

あるソフトに興味をなくしたら、最後の仕事としてそれを有能な後継者に引き渡すこと。(P.77、伽藍とバザール)

で、NPOもそういう性質があるのはその末路。ソフト技術をNPOの事業と置き換えればよくわかる。

ソフト技術の長期的な運命は、死滅するか、あるいはオープンインフラそのものの一部になるかのどっちかだと予想できる。(P.277、魔法のおなべ)

ただの問題解決なら、問題がなくなれば事業もなくなる。そうでなければ、社会インフラの一部となって、法人として運営し続ける事業ではなく、公共財となるべきなのだ。

まだまだ感銘の受けたことはあるのだが、文章として支離滅裂の度合いが高まってしまうので、この辺で。
以下はメモ書き。
---
なぜ、オープンソース・ソフトはソースコードを公開するのか?公開すると、いったいどんな「いいこと」があるのか?(P.19)
無料、ということには企業の立場からすると、二つのマイナス・イメージがある。ひとつは、お金を生まない、ということ。もうひとつは、信頼できない、ということ。(P.22)
協力して産みだし、共有することで、彼らは豊かになれたし、そうしなければ生きていけなかった。(P.27、初期のハッカー)
あらゆる社会は信頼を前提にしているんだ。人が殺人をしたり泥棒したりしないのは、法律で禁止されているからじゃない。信頼が基本で、それ以外はすべて例外的な状況なんだ!(P.53、リチャードストールマン)
みんな金のことばかり考えているので、それ以外のプライオリティがあるなんて想像できないんだな。(P.55、リチャードストールマン)
占有ライセンスはひとつの選択肢に過ぎない。(P.138)
われわれは著作権を主張するために生きているのではなく、幸せになりたいだけなのだ。(P.164)
省庁からお金なんか出たら、なんか成果を出せって話になって、そうするとみんな退きますよね、絶対。(P.214、山形浩生)

ソフトウエアは実はほとんどサービス産業なのに、製造業だという強力だけど根拠レスな幻想に基づいて運営されている(P.245、魔法のおなべ)
正しいことをやるという言いぐさが、中身のないポーズではないということを受け入れたら、ぼくたちは次に、その企業にとって「正しいこと」がどんな自己利益をもたらすのかを追求すべきだ。(P.273、魔法のおなべ)
ではなぜ50ドル払う人がいるのか?(P.303、ボブヤングRedHutのCEO)
一方は、会社を成功させるために働きたい人。他方は、成功した会社で働きたい人だ。(P.310、辞職そして追悼)
オープンソースという魔法の養成の粉をふりかけて、すべて魔法のようにうまく行くなどということはない、ということだ。(P.316、辞職そして追悼)
「生産者」側ができるかぎりの情報を提供することで、あくまでも受動的な存在であった「消費者」は主体性を獲得し、はじめてそこに「自己責任」が生じる。(P.339)