ソネット集

まぁ、私の才能などはきれいに忘れられるにしても。/(略)/きみの名前は、これからは、不滅の生命をかちえる。(P.114)

残念でした。シェークスピア。あなたの才能はみんな覚えていますが、この「きみ」の実名をソネットのなかにちゃんと残さなかったばっかりに、彼の名は滅してしまいました。とはいえ、フィクションの詩でしかないという話もありますので、そんな子供の口喧嘩みたいな一人突っ込みを入れながら読むのも大人気ないか。
前半はしっかり現代の女性オタクの心をつかんでいるヤオイです。素材選びもばっちりです。おまけに、言葉遊びというか概念遊びというか、そういう点ではやはり秀逸な詩集だなと。

でも、花を蒸留しておけば、たとえ冬にめぐりあっても/失うのは見かけだけ、実体はともに芳しく生きるのです。(P.13)

なんて、花の実体を香りと決め込んで書いていて、その美の本質を表現するのはナカナカ。また、自分の筆遣いを役者にたとえ

未熟な役者が舞台に出てくると、/恐怖心にあおられて自分の役を忘れてしまう。(P.36)

とやったり。概念を上手にもてあそんで、美の本質を書こうという点は面白いかと。とはいえ、時代のせいなのか、シェイクスピア自身が歳を食ったせいか知らないけれど

学芸が時の権力に口をふさがれ、/愚昧が学者づらして才能に指図をあたえ、/素朴な誠実がばかという汚名をきせられ(P.94)

のように、世の中のせいで、うまく出来ないという鬱屈も。晩年のシェークスピア作品の一つということで、読んでみる価値はあるんじゃないんでしょうか。