アントニーとクレオパトラ
全く言語道断だ、己れの欲情を理性の主とするなどとは。(P.113)
シェークスピアお得意の、公と私の境目を見失い転落してしまう人物を描いた人間ドラマ。大方は、名誉欲と愛欲と統治者(やリーダー)としての義務を見失ってしまうはなしなので、ややややこしいのだが、子の話は、案外と名誉欲というところの心の絡みがない分、すっきりと読める。
変りも変ったものだ、いまは娼婦お抱えの阿呆になってしまった。(P.10)
と、部下に半分見放され
この大衆というやつ、流れに漂う葦さながら、あてどなく往きつ戻りつ、さしひく潮の変化に身を任せ、流転のうちにみずから腐ってゆくのだ。(P.32)
大衆や上司の支持を失い
その「しかしながら」が、それ一つで前に言ったことがみんな帳消しになる。忌々しい「しかしながら」め!(P.60)
愛欲相手には、こんな勘違いをされ
おれの剣は、愛情のために脆くなり、事の如何を問わず、その言うなりになっていたかを。(P.110)
一戦交えてしまえば、愛欲に目がくらんで判断ミス。
そういう男にもまだ残っているものがある、己れに形を附けるための己れがな。(P.148)
とはいえ、こういう男を笑えんよなぁとも思うわけです。