ブランコのむこうで
あのさまざまな夢の世界も、この現実の世界があればこそなんだ。ここが、ずっとぼくの生きてゆく世界なんだ......。(P.176)
良質なファンタジー。明治期であれば宮沢賢治の名作、銀河鉄道の夜ぐらいが唯一匹敵できるファンタジーではないだろうか。この本をはじめて読んだとき、星新一というのは天才だと本当に思い知った一冊である。数々のショートショート。自分の肉親や明治の時代を題材にした歴史小説。そして、この長編ファンタジー。どれも読み手にそれぞれの一流の感動を生み出させる。こんな多様な領域に感動を送り出せるというのはなんということか。
夢の世界に転がり込んでしまった、主人公の少年。その夢の世界間、そして夢の世界とその夢の持ち主の現実を行き来する中で、自己がさまざまな他者を理解していくプロセスを、美しい日本語で少年に語らせる。
まず、自己理解
言いあいの時って、そういうものなのだ。相手の立場を考えるより、自分の腹立ちを理屈づけるほうに熱心になってしまう。(P.70)
そして、他者理解
「いつまでもこんなさびしい眺めのままじゃあ、きみのママがかわいそうだよ。ママの夢を楽しくしてあ
げることは、きみにできることなんだ。」(P.90)
そして社会と自己のありよう
「いまとなってはお礼もできない。しかし、この道はこれからも多くの人が通ってゆくことだろう。その人たちの役には立つじゃないか。ころぶ人もなくなる......」(P.159)
と、少年の心の成長を無理なく表現していく。言葉の美しさも話の内容も自分の子どもにぜひとも読ませたい一冊である。読み終わったところでさりげなく(わざとらしく?)、娘の机の上においておいた。
早く読んでくれないかなぁ....。