行きゆきて峠あり
「冷酒を飲んでは湯呑茶碗が一番うまいよ。カップはいかん」(上P.117)
洋酒も日本酒も飲んだ愛すべき酒飲み大臣の榎本武揚を主人公にした歴史小説。結構古くて中々手に入らない。まぁ、仕事の都合もあってネットオークションで手に入れたものだったりする。が、古い本のせいかあんまり夢中になれない。とはいえ、作者のスタンスは好きだったりする。
私は歴史は書かない。しかし、決して出鱈目は書いていないつもりである。(下P.344)
小説は小説。歴史は歴史。ちなみに、本書は、一応、武揚が学問吟味に落ちたあたりのところからお話が始まる。
「道は幾通りもあると存じます。これからまたおのれに適した道をたどります」(上P.14)
と言うことで、渡道。北海道を見て廻る。その後、不遇の時も少なからずあるものの
「悪い時にどう処するか、それがその人生涯の運命を定めるのでございますよ」(上P.51、姉おらく)
と、姉の優れたリードで成長していく。そして歴史は彼を箱館戦争へと駆り立てていく。
「自分の心は、自分にはわからなくても、他人には見える」(上P.156、津田)
「人間立身をすれあ不自由になる」(上P.290、小芝)
「ほんとに勝負は是が非でも勝たなくちゃあ仕様がねえ。負けた勝負程馬鹿馬鹿しいものはないですからな」(下P.109、土方)
で、やっぱりココで姉の指導が入る。
「戦さと申しますは、その代償に値する幸福というものがついていなくては只の暴徒でござります」(上P.191、観月院)
そして、箱館戦争が勃発。各人各様に活躍する。
「戦場は死に来るところだ、死んで当たり前、危ねえも屁もあるもんか」(下P.195、土方)
この戦争で、敵味方ともに人間の値踏みを行い続ける。
「お名前なんざあ、店先きへぶら下げた看板見たようなもんで、どうでもいいんですよ」(下P.92、柳川熊吉)
「如何に文武に秀でても人情のない人間は先ず禽獣にひとしい」(上P.173、対馬守)
人間他人の為めに泣けないような奴に、大事は任されぬものだ(下P.249、黒田)
が、同時に負けるための戦争という状況下で
「大切な人間の命にはかえられない。わたしの名などは、有っても無くても知れたものです」(下P.203、永井)
と、降伏。話はこの後、牢獄の中の生活に。出獄後の話は結局書かれぬまま終了する。
この話にあわせて、多くの小物たちが人生をつむぎだしていく。とくに、柳川熊吉が主人公の榎本以上に話をリードしていく。
「人間が人間らしくなるためには、やっぱり末の見込みのあるところへちゃんと腰を据えて、その土地に骨を埋める腹を極めてかからなくちゃあならねえ」(上P.100、柳川熊吉)
僕も、そろそろ人間らしくなる場所探すかなぁとか思う。ちなみに、北海道の人は何時の世も何でも「さん」付け。相手を慮る生き方なんだなと。
箱館軍の事を賊軍だなどといったのは朝廷の兵隊だけで、箱館のものは「脱走さん」とか「脱走連さん」とか蔭では必らず「さん」づけでよんだものです。(下P.305)