モンゴルに拉致された中国皇帝―明 英宗の数奇なる運命
「どうして大臣は皇帝が入ってくるのを出迎えに来ないのか、養狗でさえも還れば主人を見分けるのに。我は皇帝を徳勝門の入口まで送ってきたのに、誰も出て来て皇帝が入って来るのを出迎えにくることをしない」(P.104)
エセン君、すごい。大体戦場で敵国の王様を拉致っておいて、死に物狂いで「いらねー!返すー!」って大暴れする様は、なんとも滑稽です。しかも返還を拒絶し続ける明も変な国です。
土木の変で、モンゴルに捉えられた明の英宗のお話。ちゃんとした学者の書いた歴史研究書なんですけど、普通の小説並みに面白いです。
英宗返還に関する駆け引き一本に内容が絞られていてわかりやすいのもその一因でしょうか。とにかくエセン君のやることが、おもろいです。
エセンは、場合によっては、武力を行使してでも、英宗の帰還と皇帝位への復位を実現しようと執念を燃やした。(P.87)
で、返還するのに彼がとった手法はとにかく軍隊で敵国の首都の辺まで連れて行って、無理やり引き渡そうとする。そんなことされたら普通怖いでしょうが。
エセンの率いるモンゴル軍が、このように大同から京師近くの易州まで行軍を強行したのは、京師を襲撃するためではなく、英宗の帰還を実現しようとしたためにほかならなかった。(P.88)
で、明がびびって受け取ってくれないからって
もし上皇を迎えることを欲せば、すぐに京師に帰還せしめる。/もし講和せざれば(略)軍を起こし、大都を来囲する。そのときになって後悔するな。(P.143)
こんなこといったら普通に考えて本当にびびって、家の都を閉ざしちゃうのが人の心理ってもんでしょうが。で、やっぱり受け取ってくれないからって
エセン率いるモンゴル軍が英宗を擁して、大同に押しかけてきたことである。(P.151)
こんなことして、また脅しちゃう。「ごめんね返すよ」じゃだめかいな。
八月五日に奉迎のためにやってこなければ、明の辺境の人民は、苦しい思いをするだろうと恫喝した。(P.161)
まぁ、こんな堂々巡りして、ひょんなことで明は英宗を受け取ることができて、ある種めでたしめでた知って話なんだけど、こりゃ逆向きの国家的押しかけ強盗ですな。すごい事件もあったもんだ。