石狩川

それよりも、そこに彼らの新しく定めた家があったのだ。
ほっかりと身をあたためる『巣』のようなものである。
(下p.111)

北海道の当別といわれる地域の開拓のお話。明治初期の士族開拓の労苦が余すところなく描かれている。と同時に、心の変化も上手に描かれている。

誰のためかくも労苦に立ち向かうのだ。誰のためでもない、すべては自分自身のためだ、―と、というならそれも間違っている。(上p.223)

そう思い、迷い、苦しみながら開拓していく中で、新しい価値観と向き合い、すめば都の心境に至ってくる。その、主君と家老らの心の動きを第一陣の当別開拓団を通じて、また第二陣の開拓団と対比させながら巧みに描いている。
ただ惜しむらくは、状況がわからない。実は、読みながら当別町のホームページや、Wikipediaを駆使して、シップ→当別という開拓領域の変遷や道内での位置関係を把握しながら読まないと、今ひとつわかりにくい。
あと、もう一点苦情めいた感想を述べるなら、なにゆえ、北海道開拓の小説というのはここまで夢がないのかということ。状況に追い詰められた嫌々開拓話と読まれても仕方がないようなものが多い。

自分としては、自分の祖先は夢を持って開拓に来たと信じたいところである。だから、夢があってそれに向かって苦労しているという小説があって欲しいところだ。戦前の小説にそんな愚痴を語っても仕方がないのだけれども。