沖田総司―新選組きっての天才剣士

「(前略)若い君らに担ってもらわないといけないからな」
「誰よりも山南さんに魁になってもらわないと」
「いや、私のような古い時代のものは捨て石にならなくては」
(p.128山南との会話)

予期せぬ新年一冊目の読了になった本。過去読了の周瑜諸葛孔明のように比較的脇役形の人物を素材にしたPHP文庫。なので期待せずに読んだんだけれども、意外と面白かった。
というのも、若干薀蓄がうるさいとはいえ、この手の本には珍しく、首尾一貫して沖田総司の小説になっているということだ。脇役本のつまらない理由は、えてして時代解説本でしかなく、その人物をうまく引き出そうという感じがない。
本書の沖田総司は笑われて笑われて、強くなってきた(P.210)という、今ひとつかっこよくなく鬱屈した人物像になっていて、資料の空白を堂々と想像で埋め、ひとつの小説として仕上げている。そのため、主役級で活躍している近藤や土方はきちんと脇役の業突く張りだ。むしろ、山南や藤堂、永倉といった他の隊士のほうがよっぽどその視線に登場する。
歴史小説に歴史の事実を求める向きには不満かもしれないけれど、個人的には好きなつくりの歴史小説。
よって、書棚に今のところは保管することにする。