ナニワ・モンスター

こんな状況を適切に表現する成句を、徳衛は知っている。「自業自得」だ。そうした傾向を拡大させるのが、ヒステリックなメディア報道だ。市民ひとりひとりの節度のなさが、医療現場からゆとりと、医療を必要とする人々への充分な対応を奪い去っていることに誰も気がつかないふりをしている。(P.121)

医療報道は矛盾だらけだ。
どの局も首尾一貫した姿勢はないし、いうことはころころ変わる。ワクチンは危険だと騒いだかと思うと、ワクチンを備蓄しろと言い、ってのは現実あった話。まったく自分の過去の放送したことの反動で起こったことに対してまったくの反省のないスタンスもどうかと思う。
でも、それ以上に、それを鵜呑みにして騒ぎ立てて、医療機関を疲弊させる個々人も無責任とは言い張れないはずである。
報道だけならまだしも、日常的な医療話題バラエティの内容とか一定の枠ははめられないんでしょうかね。健康食品のCMにはあんなに規制があるんだから、ああいう無責任な垂れ流し情報にも一定のペナルティが欲しいとか、最近マジメに思ってしまいます。

さて、個人的にはちょっと前に、大型の単行本を買ってしまってすぐ文庫になって結局そっちも買ったために、ちょっとがっかりな気分です。内容的には、イノセントゲリラの彦根君が大活躍の巻です。彦根vs斑鳩。そして、やはりスリジエセンターの呪いは尾を引くようにできています。

村雨の脳裏をよぎったのは、古い記憶だった。在りし日、桜宮市長秘書時代にこの地に建設しようとして叶わぬ夢と散った、さくらの花。(P.369)

インフルエンザパニックは最近もあったことなので、そのときの報道やらナンやらを思い返しながら読むと、海堂小説を読むのがお初の方でも、これ単独で十分楽しめると思います。報道機関と行政と司法。あの時起こっていたことを別の視点からフィクションとして、一読してくださいませ。

「子どもみたいな大人がテレビで大騒ぎをする未熟社会、なんやね。困ったもんや」(P.74)

一家に怨嗟の声が集中してもやむを得ないかとも思う。だが感情的リンチを避けるために文明人は理性を磨き、教養を身につけてきたのではないか。メディア情報を一方的に鵜呑みにするなど、教養ある国民の反応とは思えない。(P.113)

「ものごとは、百パーセントをめざしてはならない。四割を掌握し、二割の敵と闘うくらいがちょうどいい。特に正義の御旗を掲げ、権力と対峙するというフィクションの実現のためには、ね」(P.189)

「簡単に見えることが実現しないから、長い人生を退屈せずに済むのです」(P.388)