終わらざる夏

「戦争が不幸なのではなく、事実を伝えられないことが不幸なのだと私は思います。参謀殿には戦争を完遂するお勤めがありますが、私には級友たちを動揺せずにまとめ上げる義務があります。どうか本当のところを教えてください」(中P.200)

終戦後攻め込むという蛮行で火事場泥棒をしようとしたソ連をがっちり迎え撃って撃退し、その腹いせにシベリア抑留をするという余りにも唖然とする戦後史の一コマ。ただ、ここの水際でがっちり国土を守ってくれたからこそ、今の日本の形がある事は確実なわけです。
別に戦争そのものを賛美するわけではありませんが、国民国家という仕掛けと軍隊というものが結びついている以上、攻めるにせよ守るにせよその機構に頼らざるを得ないわけで、そこが高い規範意識を持って戦っていただける事は感謝するのが自然なんでしょうね。

ちなみに、戦史として詳しくは「8月17日、ソ連軍上陸す」をどうぞ。これは、占守島の戦いがお話のクライマックスではありますが、基本、戦時下の人々の生活を描いた人間ドラマです。ですので、特に戦史ものに関心のない方もぜひ一読ください。
ともあれ、軍部が悪で暴走して民衆はだまされていて、戦後は国民をまったく守らなくてわれ先に逃げたという短絡な歴史観からは抜け出した方がよさそうです。

今日、8月17日にドサクサに攻め込んできたソ連軍と不本意な戦闘があった。この事実がちゃんと次世代に伝わらないのは、確実に不幸です。

攻められたなら迎え撃つほかはない。だがそれにしても、世界大戦は終わっているのだ。(下P.292)