元寇
「そなたほど弁舌が立つものが。この臨安にいないからだ」(P.504、陳宜中が文天祥に。元との停戦交渉使者に立てるにあたって)
このロジックで、その昔、渋谷のスクランブル交差点で反米の演説をする羽目になったのは私です。まったく反米思想でもなんでもありません。はい。
それはさておき、タイトルもさることながら設定と視点が実に興味深い一冊でした。
日本攻略を号令したのは、元帝国の世祖フビライである。だが、元との交渉の機会は多々あったのだ。日本はその一切を無視し、交渉のテーブルにつこうとしなかった。(P.20)
という、歴史的事実にもとづいて、元寇という事件を検証し直した小説です。わりと小説としても楽しめました。
で、初めの元寇は
「南宋の外堀を埋めるためには、日本に南宋との通商関係を断たせることを、蒙古はまず考えましょう」(P.184)
という、戦略的末路で日本が国交樹立を拒否ったので、ついでに
高麗の国力を削ぐためには、多くの船を造らせ、兵員を動員すればよい。日本を征服できなくても、それで高麗を弱体化するという目的は達成できるのだ。(P.487)
という、もう一つの目的もオンしてやっちまったという筋立て。これ自体は面白く、次の元寇は旧宋勢力の弱体化ってのも加わるという次第。
正直、文庫なれど分厚い本ですが、読むに値する一冊という印象かな。再読したら変わるかもしれないけど。
もし、釈迦がこの日蓮の命をまだ必要となさるならば、決して殺させはなさるまい。(P.171)
日本の命運は、若干十八歳の国際感覚の欠如した青年の双肩に委ねられることになったのである。(P.324)
日本にとって、海こそ最大の防塁であったのだ。(P.667)