極北クレイマー
「メディアはいつもそうだ。白か黒の二者択一。そんなあなたたちが世の中をクレイマーだらけにしているのに、まだ気がつかないのか。日本人は今や一億二千万、総クレイマーだ。自分以外の人間を責め立てて生きている。だからここは地獄だ。みんな医療に寄りかかるが、医療のために何かしようなどと考える市民はいない。医療に助けてもらうのが当然だと信じて疑わない。何と傲慢で貧しい社会であることか」(P.228下、世良)
まぁ、そういうことです。医療を他の色々なものに置きかえても成立します。残念ながら。巻末の解説にもありますが、誰がどう読んだって、夕張の市民病院でしょ。まぁ、登場人物とかはさておきね。
さて、職業倫理ってのをテーマに読むと面白くて
「世の中、患者は神さまだなんていうけど、僕から見れば患者はみんな、自分勝手なクレーマーさ」(P.115上、後藤研修医)
困難に立ち向かっても、トラブルを解決しても、誰も褒めてくれない。そのくせ一度でも失敗したら袋叩きにする。バカバカしいだろ、こんな世の中のために尽くすなんて、さ」(P.95下、後藤研修医)
と、うそぶく研修医。でも、院内一の倫理観と実力を持つ医師が病院を去る(細かいことは読む楽しみとして書きませんけど)にあたって、
「僕はクズ医者です。だから先生は僕を叱らなければいけない。もちろん、僕は先生の言うコトなんて絶対に聞きませんよ。死んだって聞くもんか。だってクズ医者ですからね。だけどそれでも三枝先生は僕を叱らなければならないんです」(P.175下、後藤研修医)
という、職業倫理としてあるべき姿は知っている不思議な研修医な訳です。この研修医、なんだかうらやましいことに、主人公を差し置いて
「右を見ても左を見ても男なんてクズやグズばっかなんだもん。どうせならとびっきりのクズでグズな男と一緒になって、この世のどん底を見るのも悪くないかな、なんて思っちゃってさ」(P.219下、並木看護師)
なんて、ずるくね?という僕もこんな感じで結婚できたような気もする。
薄い本の上下巻です。あんまり書くと読む楽しみをたくさん奪ってしまいそうです。是非、お買い求めの上お読みください。幾度か読み返しても十分面白かったですので。
「折角のご縁だから、忠告しておくよ。ここでは、あんまりしゃかりきになると潰されるからね」(P.20上)
「なに、大した用ではない。辞令を渡すだけだ」(P.43上)
「一点の曇りもない医療を行っているのに、訴えられるはずがない」/道理に適っているはずのそのセリフが、なぜか寒々しく響いた。(P.119上)
今中に生ぬるい追い風が、さらに突風のように吹き始めた。(P.132上)
物事を変えるのは権力ではない。たぶん、それは人の心なのだ。それなら俺にもできるはず。(P.239上)
「女を口説くなら、身ひとつで口説きなさい」(P.87下、並木看護師)
「みんな、バカばっかり」(P.169下)
「それに私はそんなに気を落としてはいない。神様からいただいた骨休みだと思っているよ」(P.172下、三枝部長)
「私は逃げません。ぼろぼろになるまで、ここにしがみつきます。何しろ医局に帰ったら一番下っ端だけど、今この瞬間、ここではトップですから」(P.221下、今中)