沈黙のファイル

日本の植民地支配の償いとして韓国民に還元されるはずだった五億ドルの賠償金。それは日本企業にとって韓国進出の絶好の機会となった。(P.49)

戦争から戦後処理への流れと、その中での日本の復興に関する一つの側面が、瀬島と言う人物を通じて、解説されている。とこまで確定的な事実かどうかということは置いておいても、非常に考えさせられる。
賠償金がなぜこのようなビジネスのステージに変わったのかと言えば

「戦後賠償の出発点は四五年七月のポツダム宣言んです。賠償は現物で、と決められた。第一次世界大戦後、ドイツから取り立てた巨額現金賠償がナチスの台頭を許したとの反省からそうなった」(P.63、東大原教授)

と言うことがあったようだ。日本人と言うのは実にたくましいと思う反面、果たしてこれで正しい賠償を完了したと言い切れるのかという、ある種の割り切れなさはある。また、それこそが

無謀で愚かな戦争の核心にかかわった瀬島が、なぜ不死鳥のようによみがえったのか。(P.11)

という本書の答えの一つなんだろうと。領土問題やらなんやらと、最近やかましい感じではあるが、究極的には、戦勝国であろうが敗戦国であろうが

「私も原爆で足をけがしたけれど、実は戦争の加害者だった。女学校の学徒動員で砲弾磨きをやった。この弾が落ちれば人が死ぬと分かっていながら、少しでも多く人が死ぬように一生懸命弾を磨いていた。私は被害者であるとともに加害者なんです。なぜ戦争が起るのか、それを考えて下さい」(P.153、被爆者の沼田さん)

と言うことこそ実際には考察しつづけなければいけないし、ましてや

五五年六月、日ソ国交正常化のための交渉が始まった。しかし抑留者の本国帰還は遅々として進まなかった。ソ連が抑留者たちを人質に、千島列島の帰属問題で難航する交渉を有利に運ぼうとしたためだ。(P.265)

のように捕虜を人質にするなど、非人道的な行為が多数見過ごされてきている事実を忘れてはいけない。一度、なんであれ白日にさらすべきだろう。
また、同じ失敗を繰り返さないように、多くの人の犠牲の上に成り立つ平和をしっかり維持するためにも。反対を叫ぶだけじゃなくてちゃんとクレバーに目的を達成する駆け引きもしっかりと。

「ガダルカナルは戦後の意思決定の雛形ですね。引き返す勇気がないのは今も一貫している。できっこないスローガンを掲げ、人も金も無駄遣いする」(P.299、北大山口教授)

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