エゾの歴史

擦文文化がアイヌ文化に変容したとされる十三世紀、ひたすらサハリンを北上しつづける人びとがいた。彼らは、それを阻止しようとする元軍と長期戦を行っている。(P.93)

へー。神風に頼らず元軍の進行を食い止めたどころか攻め込む謎の民族。
エゾの立地やその歴史の見方を再構成するにはいい本。これが全部正しい史実ってことではないのだろうけど、北方史を固定観念から解き放つには良書である。北海道は自然と共に文明に程遠い文字のない民族が住んでいて、その無知蒙昧によって和人に騙されてやられっぱなしで、明治以来の帝国政府がなくなって開放され始めたんだ。なんて、一方的な進歩史観じゃないぞって話し。

わりと著者のいうところで行けば結構がっちりした国家なので

シャクシャインの真の相手は、幕藩体制の頂点に立つ征夷大将軍そのものであった。(P.28)

アザラシの皮などをたくさん持ったオホーツク人が平泉へやってきて平泉のお偉方と一杯やっているなど、現実にあったと思う。逆に平泉のほうからオホーツク海沿岸まで毛皮を買いにいったこともあろう。(P.86)

従来は「日の本」を「日本国」の意味にとっていたので文意がよくわからなかった。「エゾ地」の意とすれば、すっきりする。(P.120)

こんな感じの話になって。その後、松前藩みたいなのが出来てもちょっと異質で

「パードレの松前へ見えることはダイジモナイ、何故なら天下がパードレを日本から追放したけれども、松前は日本ではない」(P.190、二代藩主松前公広)

と、独立国のような風。わりと意外な感じなので、ゴールドラッシュがあって人が渡ってきている新天地。

蝦夷が島の黄金ラッシュを聞きつけ、各地から五万余の和人の砂金掘りが押しかけ、砂金の出る水路を勝手に掘りまくった(P.171、17世紀初期)

北海道開拓は、ともすれば明治国家の専売特許のようにいわれる傾向にあるが、その方向づけなりは幕府自身によって築かれていることを見落としてはならない。(P.247)
それにしても、江戸~明治と言うなかで

諸民族自由に往来できた地域に「国境」なるものができ、一見進歩的な「近代化」という名のもとに、多数の人びとは各地域に縛り付けられた。やれパスポートだ、やれヴィザだ......。であるからこそ、現在の「日本」からニンクタや三姓まで行くのは、容易ではない。(P.225)

と不便になったんだろうなと。
それにしても、全くこの国は...

ハバロフの一団があらわれ、一六五〇年に黒竜江に出た。彼らは略奪、暴行をくりかえし、子供まで火あぶりにして毛皮をあつめた。強盗としかいいようのないハバロフは、ロシアでは現在でも英雄である。(P.208)

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