追跡・「夕張」問題

戸別訪問で、注水の同意を取り付けることになった。赤石さんは五件を担当した。訪ねた先で、二人の子どもを抱えた妻は隣室にこもり、泣き崩れた。義父が「泣いてもどうにもならない。(書類を)書いてあげなさい」と諭した。署名押印された同意書を受け取り、深々と頭を下げた。(P.107、坑内消火のため、安否不明者が61名いるが坑道への注水を会社が決定したの受け。)

こんな残酷なことで成り立っていた火力発電が是で、原子力発電が非だという感覚は僕にはどうしても理解できない。

一九八二年(昭和五十六年)十月十六日、北炭夕張新鉱でガス突出事故が発生し、九十三人が犠牲となる大惨事となった(P.103)

この悲劇からはじまっているが、結局は国のエネルギー政策の犠牲者。

「国から『生産計画を達成できなければ、補助金を打ち切る』と圧力をかけられ、会社は無理をしていた」(P.103)

という中での採掘。でも、無理がなくたって過去たくさんの死人を生んでいたエネルギー源ではある。だけれども明治維新の富国強兵の掛け声からはじまり戦後復興まで、日本が自分で使えるエネルギーはこれしか事実上はなかった。でも、決して、いろんな意味でクリーンなエネルギーではない。おまけに生き残った遺族であっても

「遺族のために要求した弔慰金が、逆に苦しめる結果にもなった」(P.110、弔慰金2千万円が出たための周囲の嫉妬が激しく)

などという悲惨な話ばかりだ。そんなことを意識もせず、のうのうとエネルギーを使ってきたのであれば、それこそ問題だ。こういう背景に思いいたれば、原発の停止はともかくとして、火力発電の復活などと言うことを礼賛する感覚にはなれないと思う。
この続きは、前に書いたBLOGのエントリーに譲るとして。

さて、本書はエネルギー問題の本と言うより、基幹産業を失った地域における自治のお話。かの有名な夕張の財政破たんの話だ。破たん後、色々だまされるわけだが、極めつけは

男は全国の温泉地などで、性的な展示物で酔客を集める「秘宝館」の立案者としても知られていた。地元道議の紹介だった(P.123、石炭の歴史村オープンを間近に控えた頃)

こんな人にまで掻き回されてしまったわけです。でも、どうしてこうなったかと言うのは、多分、この子供の作文に集約されると思う。

「王様は夕張にきてほしい。お金持ちの王様がきてほしい。夕張をたすけてほしい」(P.236、地元小学生の詩の締めくくり)

こんな他力本願な大人ばかりだったから、結局そうなったんでしょう。僕ならこうするを書かなかったということは、それは大人を映す鏡なのだと思う。
とはいえ、他方で夕張には誇るべき資源がある。メロンだ。

「夕張市がなくなっても困らないですよ。誰も相手にしてくれなかったことが、今は逆に強みですから」(P.182、夕張市農協組合長)

と言える力こそが、本当の財産だと思う。ただ

「年間販売額が三十億円のメロン農家が市を救えるわけもなく、いままでどおり粛々とおいしいメロンを作るだけ」(P.188)

だし、

「長イモと、炭鉱全盛期の炭鉱マン向け商品作物がなければ、現在はない」(P.193)

炭鉱があったことの恩も忘れてはいない。

夕張市が財政再建団体になるが、「農地を持って引っ越すわけには行かない」とあって、今後も地域一丸の努力を続ける。(P.197)

こういうことの積み重ねが夕張を再興させるのだと思う。当然市民も変わってくる。

市の助成金はゼロとなり、二百人近い市民ボランティアが手づくりで開催にこぎつけた。「こんな結束力、いままでの映画祭にはなかった。理想の形だと思う」(P.223)

「いまさら原因を探しても借金は減らない。われわれはこうするから、市もこうしてほしいとの建設的な意見をもつべきだ」(P.234、市長と市民の懇談会で)

しかしながら、一気に解決したい外野もいる。

「夕張市は借金を踏み倒せ。これで一気に解決だ」(P.272、板谷道議、無責任な貸付を踏まえ)

ある意味あってる。

総務省幹部は「町になるぐらいの発想がなぜ出てこないのか」と憤る。(P.276)

これもしかり。僕らの周辺では自治体解散まで踏まえた思考実験までした。
でもね、どこまで行っても、自治の本質は「自分でやること」なのです。外野がいくら言っても、一時的に解決しても何ら変わらないのです。常に僕らがこれから問うべきことは、一つ。

「夕張はどうなっているのですか」(P.46)

でしかありません。

「中田さんはやりすぎたし、人口減も止められなかった。しかし、十年前に再建団体になっていても、今の夕張が賑わっていたとも思えない。どうすればよかったか、明確な答えを出せる人はいるのだろうか」(P.134)

「寄り道をして山ブドウを取るなど、四季の移ろいは徒歩だからこそ感じられる。それが郷土愛につながるのに」(P.251、スクールバスになることに対し)

「市内で建築確認ができないのはたいへんだが、それより、確認申請できる仕事がないほうが切実だ」(P.261、市内の建築業者、役所のリストラで有資格技官が退職してしまうことに対し)

「財政破綻した今、既存のやり方は通用しない。若い力が新しい発想で『自分のまちを変える』という気概で取り組めば、やりがいは生まれるはずだ」(P.266、熊本県宇土市勤務、元松氏)

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