日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦
「思い出したくない記憶にマイクやカメラを向けて、あえて心をこじ開けて証言してもらう。そこまでしてもらって番組作って、僕たちは何か彼らに報いることができるんですかね......番組を通じて彼らは救われるのでしょうか」(P.354、音声・照明担当、森山氏)
番組作りをやれば必ず取材対象に対して同じような思いを持つ。それでもやり遂げることができ、そして社会に優れた価値を残せるのであれば、それが本当のマスコミの仕事だと思う。そして、この番組はそれだけの価値のあるものだったんだと思う。残念ながらOAを見ることができなかったので、改めてDVD-BOXを購入してゆっくり見たい。
日本海軍がなぜ開戦に走り、特攻を考案し、敗戦後、東京裁判で陸軍悪玉的な空気をつくることまでやったのかを、400時間の証言テープを元に再構成し分析した番組を元にした一冊。
「日本海軍の病理というだけでなく、いまの日本に生きる私たちの病理でもある」(P.14、番組について佐野眞一の評)
という評は、まさにそうだと思う。僕が一番びっくりしたのはこれ。
「対一国以上の戦争にしない方針を再確認する」(P.111、昭和11年に天皇に裁可された「帝国国防方針」の趣旨)
「私自身、国防方針がどこにしまってあったかということについて、軍令部にいた時に、見たこと、聞いたこと、教えられたことがなかった」(P.112、佐薙元大佐)
法令軽視。それも、中枢にいる人によるもの。民は法を守って、中の連中はそんな法は知らんと。天皇の裁可無視して戦争おっぱじめたなんて、聞いてないよって感じです。官僚組織とお付き合いしてても、自分の所にまつわる法律とか条例とか、ほとんど読んでない連中がごろごろ。もっといえば、それをつくる立場の連中も作ったものをほとんど読んでない。今の日本もあんまり変わらん。おまけに現状予測が自己都合。
「南部仏印進駐で、あんなにアメリカが怒ると思っていなかった」(P.107、高田元少将)
全くあきれる。で、
「下はね、(和戦)二股かけちゃ仕事ができないんです。予算取ったり、戦備取ったり。どっちか決めてくれですよ。どっちかはっきりしてくれないと仕事できないんですよ」(P.109、高田元少将)
と、上が使えないから下で勝手にやるという悲劇的な戦争。
今まで、戦争で亡くなった末端の兵士たち、つまり命じられた側の悲劇は度々伝えられている。しかし、特攻で亡くなった兵士の死に対し、もし私たちが何か応えることができるとしたら、それは「命じた側」の全貌に迫ることではないだろうか。(P.11)
この番組のテーマに対して、特攻隊員だった人たちの回答は。
「じゃあ、その人たちは、昭和十九年はじめから、以前から特攻兵器を作って、どうしようと思っていたのか......聞きたいですね。それで勝つと思っていたのか......」(P.224、特攻直掩をした角田氏、テープを聴いての感想)
「もしかしたら戦友たちはテープを聞かずに死んでかえって幸せだったのかもしれない。反省会のテープは、今の国民に知らせる意義はあると思う。しかし、終戦の直前に散った友を思うと、その純真な気持ちをきちんと評価してやってほしいと改めて思いました」(P.282、元特攻兵、坂本氏)
でも、本当に命をかけてこの国を守ってくれた方々には、
青い、透明な、祈りの気持ち(P.203、テーマソングのうち合わせメモ)
抜けるような青空の下に生きれる幸せ。これへの感謝の祈りです。
ちなみに本の帯はこのセリフ。
「陸軍は暴力犯。海軍は知能犯。いずれも陸海軍あるを知って国あるを忘れていた。敗戦の責任は五分五分であると」(P.290、豊田元大佐)