スリジエセンター1991

「私は日本では愛されなかった。ささいなことに反発され、刃を向けられ、足を引っ張られる。患者を治すため、力を発揮できる環境を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、謗り、私を舞台から引きずり下ろそうとする。私はそんな母国に愛想が尽きてしまったんだ」(P.367)

こんなエンディングはせつなすぎます。海堂小説で個人的に最も好きな一作です。
これを読むと、きっと海堂作品すべての見る視点が変わってしまうかと。多分そういう視座の大転換も含めて、作者の構想に入っていて、読者としては全作品を読み直す羽目になり時間がまた奪われるという...。
ただ、非常にこんなエンディングはないでしょうという気分です。あんまり解説もしたくなくなるぐらい。文庫にはまだならないのですけど、ぜひ、ブラックペアン、ブレイズメスと続けてお読みくださいませ。

「日本の未来がかかっていようが、世界が破滅しようが、そんなことは知ったこっちゃねえ。オイラにとって大切なのは目の前の患者のいのちだけだ。お前さんは天城の力を発揮させないように手足を縛って手術させ、オイラの患者のいのちを危険にさらしたんだ。(略)世界中がお前さんを賞賛しても、オイラは絶対に許さねえ」(P.357)

「天城先生はわがままなボスでした。でも患者には優しかった。素晴らしい技術を、出し惜しみもせずひたすら提供し続けました。でもその報酬として天城先生は何を受け取ったでしょう?学会で浴びたささやかな喝采ですら翌日には誹謗中傷に変えられてしまう。天城先生をこの国から追い出したのは、俺たちの卑しい心根なんです」(P.384)