LAPが作る地域。地域が作るLAP。
以前にも、地域情報ポータル(LAP)について紹介したこともあるが、ここはしつこく愛知県の西尾市の地域情報ポータルについて紹介しよう。ポータルの名称は、ずばりエリアの市外局番を取って「0563.net」だ。この運営団体はそのままNPO法人化もして更なるステップアップを目指している。地域でも非常に活用され、特に若者のバーチャル活動拠点として、若者の自発的な歴史建造物の保護運動の発端になったり、地域の若者の手による数々のイベントの実行母体が生まれたりしている。ここまではっきりとした形で、LAPが機能している地域というのも非常に珍しい。
私の愛知事務所の近所ということもあり、折角なので代表の榊原氏に直接お話を伺ってみた。お話を聞いてみると三河の小京都という歴史的地域ならではという部分もたくさんあるが、他の地域においても役立つであろういくつかのポイントも見えてきた。
その1:地域とは何か?
地域というと、なんとなく行政区や歴史的背景などに目が向きがちである。しかし、0563.netの場合、地域情報のポータルというのを考えた時に、どこまでがひとつのLAPで覆うべき地域の範囲かということに対するある程度合理的な考察があることは、特筆するべきだろう。0563.netが地域の範囲を考える上で前提としている考え方を紹介しよう。
- リアルにつながらないものは地域ではない
榊原氏は口が酸っぱくなるほど「車で30分で会える範囲」という表現を繰り返しているが、その情報源である人間にアクセスできなければLAPとしての意味はないという考え方。 - 人そのものが情報
「デジタルデバイドが無くなり、携帯などですべての人が情報の受発信者となれば、地域の情報というのは地域に住む人間そのものになる(榊原氏)」 - 人間が使える時間は有限
人間が情報の処理に使える時間は有限だ。一日は24時間しかないし、睡眠、仕事etcと引いていくと限界がある。
この三つが述べていることは、地域には地理的限界点と情報量限界点という名の人口限界点があるということだろう。
LAPにおける地域というのは、車で30分で、一日数時間の処理で処理しきれる情報量=人口を有するエリアのことだと考えているのだ。そこで、割り出された人口上限が、「ちょっと適当ですが、10万から20万程度じゃないかと思うんです。それがちょうど、市外局番で割った0563のエリアがぴったりだと思った(榊原氏)」のだ。
その2:地域コンテンツとは何か?
LAPにおける地域コンテンツは、ゲームを作ったりいろいろなアプリケーションを付けたりと案外技術志向で作りがちである。しかし0563.netでは、その1で紹介したように区切った地域の中にあるものを、しっかり考えてみることから始めることにしたた。
どう地域を区切ったところで、必ずあるものは3つあるそうだ。歴史と風土と人間だ。
そしてもっとも重要なものが人間。「地域の人間は地域の歴史と風土を反映している(榊原氏)」し、LAP内の人間は「ユーザーであると同時にコンテンツ発信者でもある(榊原氏)」からだ。
重要なのは、とって付けたコンテンツを作ることではなく、地域にいる人自身が積極的にLAPそのものに関われる仕掛けである。それさえ出来れば、それがそのままその地域ならではのコンテンツになるのだから。
その3:LAPが成すべき事は?
その1、その2を通じて、榊原氏が辿り着いた結論は、「地域情報作りは人創り(榊原氏)」ということだ。LAPが面白くなるのもつまらなくなるのも「地域に住む人それ自体によってくる」からだ。「地域に住む人が、常にその地域のために何がしかの貢献をしたい、その地域の情報を得たい」と考えていれば自然と魅力的なLAPになるし、「今時の人のように、中央からのマスメディアのものこそが情報と思っているようでは、面白いコンテンツにはならない」から必然的にLAPもつまらないものになる。
「歳食ったオヤジどもはもうどうにもならないとして、次世代の若い奴を面白くすることが、まずカギじゃないか」とかんがえて、このポータルを通じて若い世代が「リアル」に活躍できる場を用意する活動を積極的に展開している。
具体的にそれらが反映されるとどうなるかは、0563.netのサイトを見ていただくとして、取材の際に榊原氏より、「一言」ということで多くの地域情報化やまちづくりに取り組む方たちへの苦言をいただいたので、紹介したい。
「梅にうぐいすの風景は確かにキレイだ。だけれど、自分の地域でそれを見たいからといって、むりやりに梅を植えて、うぐいすを放したからといって同じ風景にはまずならない。大切なのは、なぜ、そこに梅が育っていて、その梅にうぐいすがとまっているのかを理解することだ。その上で、その構造を真似することが大切。梅とうぐいすじゃなくても良いじゃないかって。」
このスタンスこそが、LAPに限らずCANに取り組む僕らにも重要なのではないかと思う。■