地域情報化必敗の陣、地域商店街EC
最近良い事例の話ばかりなので、たまには、「ど勘違い」してる悪い例の話もしてみようかなと思ったりもします。こういう場合実名トークしちゃうと、訴えられたりして怖いので匿名で行くことにします。(私は臆病者ですんで-笑)
北海道のT市では、市と大学が一丸となってある地域情報化プロジェクトが動いているんです。それはどういうものかというと、「商店街によるオンラインショップ(バーチャルモール)&決済としての地域通貨」。なんかすごそうだけど、そのままやったら普通に失敗すること請け合い。
なぜって?それをすこしづつ解説しましょう。
1.特産品ECと商店街ECは根本的に違う
商店街が「観光客専用」みたいなところは、「商店街=特産品販売所」なので、バシバシとオンラインショップしましょう。こういう場合は本質的に「特産品EC=商店街EC」なので、普通のネットビジネスのノウハウで、普通に成功できることでしょう(それはそれで大変なんだけど)。でも、それって地域情報化とは関係ないですよね。
一般に地域の商店街には、特産品はそれほど売っていない。それは当然。商店街は、あくまで商活動を通じて地域住民の物的ニーズやサービスニーズを満たすもの。人間活動の衣食住において地域差はそれ程ない。商店街に求められるものは、商圏住民が直接その場に行って、商圏住民の衣食住を満たすことだけ。それであれば、オンラインショップに、いくら決済があっても、取りおきサービスがあっても、配送サービスがあっても、それ程嬉しくはない。むしろ営業時間の延長とかの方が重要ということになる。
2.オンラインショッピングの本質って
オンラインショップで勝ち組になる要件は結構シンプル。「オンリーワンショップ」か「ワンストップショッピング」。オンリーワンなら、どうにかこうにか生きていけるし、ワンストップなら誰よりも大量のアイテムを揃え、どこよりも安く売り、欲するものをリコメンドし続ければ勝てる。
商店街は個々の店舗を連合させることで、本質的に日常的な地域のワンストップショッピングを目指している。ある種オンリーワンショップである特産品と根底から違う部分だ。ネット上では、ワンストップ型の大型オンラインショッピングは上位数社しか生き残りが不可能であることはすでに常識になっている。また、品揃え数と売価勝負という部分も大きく、小資本ではとても立ち行かない。この辺は、リアルの世界の大型スーパーと商店街の争いと同じである。現時点で、ワンストップ型のオンラインショップであれば国内では楽天、Yahoo!ショップ、GAZOOなど大資本によるし烈な争いが繰り広げられ弱小自治体が入る余地などないのが現状だ。言い換えるなら、T市商店街が6兆円という巨大なキャッシュフローを持つトヨタに挑戦状を突き付けるようなもの(まぁ、どっちも同じTだけど)。普通に考えたらかなりのドンキホーテだ。
3.仮に成功しても・・・
仮にこのような商店街ECが成功したとしよう。それはそれで不気味な光景が待っている。地域の人間も大多数が商店街オンラインで商品を購入してしまうので、商店街そのものに行く必要はなくなってしまう。
で、商店街はどうなっちゃうかというと、大量の商品を入れてあるだけの倉庫。配送センター。これって商店街を軸にした地域情報化なのかな?地域活性化なのかな?
まさに空洞化した商店街。商店街「オンラインショッピング」と考えれば、こうなっちゃっても成功なんだろうけど、商店街という一つの地域の活性化という視点でみれば、もはや商店街じゃない。
こんな、勝ち目がないばかりか、勝っても首をかしげる状態が待っているオンラインショッピングを地域情報化のためにやってどうするんだろうか。
4.地域通貨は外貨じゃない
おまけに、地域通貨をこの手の決済に絡めてどうするんだろうか?オンラインショッピングが成功したとして、T市の人口なんて高が知れるんだから、お客の大半はT市の外にいるということになる。
となると-個人的に、地域通貨に懐疑的という事もあるけど-外から入ってくるお金に「うちの地域の通貨をつかえ」というのは、どうかと思う。
例えばAmazon.comで洋書を買うと、「ドルという名の欧米地域の通貨に変換されて損をするのでめんどくさい」という気分になってしまう。だから、洋書を買う時には、Amazon.co.jpで買う。が、実際にはカード決済は便利なもので、円ドルを変換して、売買してくれるのでまだいい。
地域外の人のために、これと同等の仕掛でも用意するんだろうか?
そのコストを差っぴいても良い!というほどのお金持ちじゃないと思うぞ。T市も、日本国も。
と、見ても分かるように、このような商店街ECは論理的に成功しようもないし、成功しても何とも判断しがたい状態しか迎えない試みである。まさに愚の骨頂だ。それでも、「やらないよりやったほうがマシだ」という議論もあるだろうが、もっというと、これを道民なり国民の税金というものでやろうというんだから、かなり良い根性だ。やったほうがマシというなら、T市の自前の財源で勝手にやってくれといいたい。
商店街でやるなら
でも、地域の活性化につながるような、商店街のIT化というのが不可能かというと、そうでもないと思う。というか、そういうまっとうな取り組みのほうが全国には多いと思う。
地域情報ポータルの視点を取りいれるのが一つ。いわば、○○商店街という名の一つの地域として捉えるのだ。エリア内での人の動きを活性化させ、商店街にお金を落とす機会を増やすのである。東京の「ささはたドットコム」はその好例である。しかし、これは東京の商店街ならではという側面は否めない。地域情報ポータルの運営コストを考えると「0563.net」の例では、商圏人口に10万人が必要だそうだ。これはひとつの商店街だけでは無理な商圏人口といえる。
もう一つの手段として、ホットスポットというのも注目されている。商店街という直線エリアの特性を生かして、簡単な無線ターミナルで商店街全体を繋ぐというプランが各地で動き出している。非常にローコストで出来、組織的には既存の振興組合やNPO法人という形でインフラの永続的な維持もしやすい。ITによる商店街での来客の滞留を生み出す手法であると同時に、地域内のインフラ構築を通じた振興組合等の人的交流の再活性化という側面も持ち、地域活性化に寄与することも考えられる。とはいえ、IT人口の少ない田舎だとこれでもつらかったりする。
後は携帯メールを活用した形での商店街への来客誘因は非常にポピュラーな手段だ。一定の効果も見られている。ただ、これらに関しては数多くのASP等のローコストのサービスがあり、むしろこれはそういう民間企業のサービスを活用すべき。柔軟に地域の中と外のサービスや組織を組み合わせて、最適のソリューションを探すのも重要だ。
いずれにせよ、いくら商店街のIT化だからといって、商店街=沢山の商店の集まり→沢山のショップの集まり=バーチャルモールというだけでは、短絡的にもほどがあるでしょう。
地域情報化は簡単そうで難しいものです。■