CANだけじゃ足りない!地域再生のために

地域活性化と地域情報化やCANというのは結構セットで議論されることが多い。でも、実際ネットワークだけで地域が復興したといえるところがあるかといえばおそらくNOだ。
経済的観点から見た場合、CANというのはいわば域内の情報やお金の流れを制御したり効率化したりするもの。それ自身が何かを生み出しているわけではないと思う。
言い換えれば域内の経済で非効率だったことを上手に回すだけのことである。ものの回転において、摩耗するものは摩耗するので、やっぱり外から何か入ってこなければ、地域経済は事実上、縮小していく。おまけに、インターネットのようなネットワークの出現で、域間のネットワークが、ここまで効率化すると摩耗どころか流出が始まり、結局、田舎は寂れるというオチに行きつく。
コミュニティーだ地域通貨だ何だと叫んだところで、外貨を稼げないと地域は寂れる。これだけは変わらない事実だ。

地域にとって外貨を稼ぐ方法なんかは限定されている。

  1. 公共事業を誘致する
  2. 企業のブランチを誘致する
  3. 地域に外貨を稼ぐベンチャーを作る

この三つぐらいだろう。

このバブル崩壊のご時世において、1、2は非常に絶望的な手法といえるだろう。
そうすると必然的に残る手法は3。おまけに、誘致のための造成だのビル建築だの余計なお金が掛からない分、自治体から見てローコストで生まれ、ハイリターンともいえる外貨を稼ぐ可能性を持つベンチャーは魅力的だ。
では、どういう企業が「その地域で」外貨を稼ぐといえるだろうか?

ベンチャーは4つに分けて考えよう

ベンチャーというと、ITベンチャーだとかBIOベンチャーのように「取り扱い品目」で種別を区切ることが多いが、地域の特性に応じてベンチャー企業を分類して考えることが地域を経済的に再生させるのには重要といえる。
本社(企業のコア機能)の立地条件と主力製品の市場特性で分ける事が重要である。
本社立地という観点は、立地条件が原材料等の制限で制約を受けるかどうかである。
いわば、どこでも立地できるものは「立地グローバル」、どこでも立地できるわけではないものを「立地ローカル」としよう。
市場特性という観点は、その事業展開が域内に限定されるかそれとも広いエリアで受け入れられるものかで分けて考えよう。域内限定のものを「市場ローカル」、域内限定されないものを「市場グローバル」としよう。この条件が、いわば外貨を稼ぐかどうかを分けるといえる。

そうすると、次の4つに分類される。

  1. 立地グローバル、市場グローバル
  2. 立地グローバル、市場ローカル
  3. 立地ローカル、市場ローカル
  4. 立地ローカル、市場グローバル

1は、普通のソフトウエア系のIT関連の企業はこれに当たるといえる。
外貨は稼ぐものの、どこに立地しても良いということは、その地域をさっさと見限るリスクがあるといえる。地域おこしのつもりでいっぱい誘致したり起業させても、先々いなくなる可能性がある企業群だ。○○バレーの類で、一時うまく行っても、将来はその起業家個人の地域への愛着に頼るだけである。
これらはいわば、「グローバルベンチャー」といえる。

2は、スーパーマーケットや商店街の小企業群、買いまわり系のベンチャーや一部の福祉関連サービスなどが当たるだろう。CANを入れることで、地域内の流通効率などが上がることはあるだろうが、地域内の富全体を向上させることは残念ながら少ないといえる。ここまで、縮小化した日本の田舎にとってこれらはいくら増やしても、富の奪い合いにしかならない。3も、2と同様といえる。
これらの事業で、生まれるベンチャーは「ローカルベンチャー」といえる。

「グローバルベンチャー」はいつどこに去っていくか分からないし、「ローカルベンチャー」は外貨を稼がない。すると、地域が欲するのは外貨を稼ぎ、かつ外へ逃げていかないベンチャー。ローカルとグローバルの中間。いわばグローカルなベンチャーだ。そうしたグローカルベンチャーが地域再生の切り札といえる。
そして、それこそが4だ。立地がローカルで市場がグローバルな企業だ。
しかし、そんな都合の良いベンチャーがあるのだろうか。
仮に存在していたとして、日本の疲弊した田舎にそんな会社が生まれるものだろうか。

そして、岩見沢

CANフォーラムの活動に長く関わっていらっしゃる方であれば北海道岩見沢市はおそらくご存知だろう。光ファイバーでのインフラ構築や市民向けの情報センターの構築など、いわゆるCAN構築を積極的に行ってきたエリアだ。実はここにネイチャーテクノロジーというハーブを素材に使ったDGDS(ドラッグガスデリバリーシステム)という技術をコアにした、まさに「グローカルなベンチャー」が存在する。
現在、そのDGDSを用いて作られた製品である「健康香料」が、全国の薬局薬店などで販売され、ネイチャーテクノロジーは非常に驚異的な成長をはじめている。岩見沢に莫大な外貨をもたらし始めているのだ。
このDGDSは簡単に言うと、薬を揮発させて皮膚呼吸で人体に摂取させる技術。で、それで一番のキーを果たすのがハーブである。岩見沢はこの技術の肝であるハーブを育成するのには最適の環境なのである。DGDSを活用するこの会社にとって、基本となるハーブを生育できる自然環境こそが立地条件といえる。そして、そこから生まれた製品は、全国の市場で通用するまさにグローカルなベンチャーである。
しかし、この程度の自然環境だけでグローカルベンチャーがドンドカと生まれるものでもない。
実は同社社長の刈田氏が起業の際に岩見沢に目を付けたのは、自然環境もさる事ながらすでに構築された情報インフラにあった。全国の市場を相手に活動する以上、情報インフラがしっかりしていなければ、そんな田舎には立地できないということだろう。あとは、市の担当者の熱意が勝負だったようだ。
いわば、「地域の自然」と「地域の人の熱意」と「CAN」が生んだグローカルベンチャーといえる。
地域の活性化には、CANだけでは足りない。しかしながら、CANが無ければ始まらないのである。ただし、CANの活動や地域活性化の活動において、こうした「外貨を稼ぐ」という観点が非常に重要である。ただただ、地域のニーズを単純に組むだけでも足りないのである。(それすらやらないのは論外であるが)

試されつづけた大地からの答え

まさにこの岩見沢モデルこそが、情報画一化、助成金漬け交付税漬け、土建屋依存etcといわれた、日本の様々な地域を救う一つの答えといえる。
技術区切り製品区切りによる○○クラスターも結構だが、こうした個々の自治体が元気になり、その相互の関連で本当に地域に根差し、長期的に見て地域の活力になる産業群の構築こそが、日本の再生を握るのではないだろうか。
この岩見沢モデルこそが「試される大地」といわれつづけた北海道からの全国の地域への回答。日本再生のベストモデルだ。■

【参考】ネイチャーテクノロジー株式会社
http://www.nature-technology.com/