ジン&ビターズ

Fはこのカクテルはむちゃくちゃ好きです。
たいていのバーで頼みます。
んで、無理難題を吹っかけてしまいます。 決してそんなつもりは無いんですけど。
一つだけ全国のバーマンにお願いです。 ジン&ビターズ頼んだ時に、 ピンクジンを作のだけは勘弁してくださいね。 そんくらい大好きなカクテルですが、今回は Fにとって一番苦い、ジン&ビターズの話を。

去年ですか、Fの従兄弟が他界しました。従兄弟と言っても もう歳が一回り以上離れていたのですけど。
役所勤めの方でした。弔辞はその市の市長が直々に 読みました。その市長が言うとおり、その人がいなくなって 一番困るのは市民でしょう。 というくらい、これからの市政を デザインできる逸材だったそうです。

これはFには関係のないことといえばそれは関係ない。 もっとはっきり言えばFは出席自体メンド くさかったんですね。実は。 ほとんど口をきいたことすらなかったんですから。 弟さんには アルバイト先の店長だったので、 大学生の時にお世話になりましたけど。

でも、通夜で、その方の奥さんから言われた話で、 反省しました。

「Mちゃん(Fの名前の方はM)。うちの人はね MちゃんがH大(Fの母校)受験するってきいた時、 きっと受かるぞって言ってたんだよ。」

これは一番びっくりしました。だってFは成績 オール1で 入学できる高校に通ってたので、親戚中から、
「受験料の無駄」とか
「まぁ、落ちるだろうけど、本人が納得すればいいんじゃない」 とか言われてたし、親ですら合格するなんて微塵も 思ってなかったそうですから。
だから、そんな事言ってくれてた人が いたなんてびっくりしました。奥さんの話を続けると

「うちの人もね、市役所に入ったけど、田舎の高校の出身で、OBも何にもいない所に入って、苦労したから、Mちゃんが 受かった時は自分のことのように喜んだし、 入学してからも、『俺みたいに、回りにOBいないから 大変なんだろうな』っていっつも気にしてたんだよね」

通夜の席には居れませんでした。涙が出てきて。
通夜の席で飲んでる、親戚連中なんかよりはるかに 自分のことを理解してくれている人がいて、 気に留めていてくれて。 口をきいたことがほとんどないのに。
ましてやその人の葬儀をメンドくさいなんて考えてたなんて。(Fは罵られたりするのには強いが、優しさには弱い)


抜け出してバーに直行しちゃいました。
単に飲みたかったので抜け出してバーに行くこと自体は 計画のうちにあったのですが。

でも、カウンターに座っても飲む物が何にも思い付きません。マスター(以下m)がよってきて

m「何になさいます」
F「ジン&ビターズ」
ほとんど習性というか反射で出てきました。
m「ジンはお好きですか?」
F「ええ」
m「何になさいます」
F「記念になる物を」
m「はい。」
F「あと強いのを」
m「プリマスの200周年でいかがでしょうか?」
うなずくF。言葉を費やしたくなかったです。
声が涙声になってそうで。
マスターが、きちんとアンゴスチュラビターズを グラスに垂らし、広げ、軽くきる。
そこにすごく冷えた、プリマスの200周年を注ぐ。
m「どうぞ」
しばらくそのグラスを眺めてから、飲みました。
飲みなれているカクテルのはずなのに、 なぜか非常に苦いカクテルに感じたことだけが 記憶に鮮明に残っています。

でも、今でも、プリマスで作ったジン&ビターズを飲むと、 「こんな人間に期待してくれる人がいたんだ。 頑張らなきゃ」って思いますね。
味は苦くは感じませんが。