ベルの不等式
EPRのパラドックスとその後に続く有名なボーア・アインシュタイン論争は
量子力学における解釈上の問題(反実在主義と実在主義)のものに見えた。しかし、ベルによってEPRの思考実験が実際に経験的な差異を生み出せる事がわかった。
アインシュタインの描いている古典的描像、すなわち、十分離れた2粒子が相互作用を及ぼさないという事を仮定した場合と量子力学の場合では、実験的に、十分違う結果を生み出す可能性がある事がわかった。
EPRの描像において満たされるであろう不等式をベルが導き出したのだ。
ここでは、それをベルのオリジナルではなくボームによるものを紹介する。
まず、中央に粒子の発光源を用意する。
そこから、スピン1/2の粒子が一重項状態で左右に飛び出す。右と左にスピン状態を計るメーターを用意する。
Aでは二つのスピン方向aとa'をBではbとb'を測定する。
n番目の粒子のスピン成分(+1か-1)をan、a'n、bn、b'nと表記する。
で、n番目の実験について次のような式を作ってみよう。
γn=anbn+anb'n
+a'nbn-a'nb'n
さて、ここで十分に離れているAの実験はBの実験に影響を及ぼさないので、
an、a'nとbn、b'nはそれぞれ依存せずに値を持つと考えられるので、γnは次のように変更できる。
γn=an(bn+b'n)+a'n(bn-b'n)
さて、ここでbnとb'nは同符号か異符号の場合しかないので、γnの値は+2か-2のみである。
n個の事象の和を考えてみよう。
|(1/N)Σγn|=|(1/N)Σanbn+(1/N)Σanb'n
+(1/N)Σa'nbn-(1/N)Σa'nb'n|
C(a,b)=lim(1/N)Σanbn
C(a,b')=lim(1/N)Σanb'n
C(a',b)=lim(1/N)Σa'nbn
C(a',b')=lim(1/N)Σa'nb'n
そうするとN→∞の時に
|C(a,b)+C(a,b')+C(a',b)-C(a',b')|≦2
これがいわゆるベル不等式である。
さて、ここで、この式を量子力学に適用してみよう。
ここで、仮定しているような一重項の粒子においては量子力学では次のように書ける。
C(a,b)=-cosθanbn
C(a,b')=-cosθanb'n
C(a',b)=-cosθa'nbn
C(a',b')=-cosθa'nb'n
aとbを平行にとると
θanb'n=θa'nbn=φ
θa'nb'n=2φ
F(φ)=|1+2cosφ+cos2φ|≦2
これが量子力学におけるベル不等式になる。
果たしてこの式は成立しているだろうか?
明らかにF(φ)はφが0~90°の間は2よりもおおきい。
さて、かくして明らかにEPRの理論と量子力学は経験的に違うものであることが明白となった。 これを実際に試したものとしてアスペの実験が著名である。 この軍配は量子力学に上がった。 こうして、単純な古典的な描像は棄却されてしまった。
参考:不完全性・非局所性・実在主義 マイケル・レッドヘッド著 石垣壽郎訳 みすず書房