全体主義
クワインが提唱した考え。
この頃隆盛だった論理実証主義などの分析的なやり方に対して、 大きな疑念を投げかけた。
細かい議論や思想は他に譲って、若干の論理上の性質を示すのにとどめよう。
この頃主流だったのは、ある特定の仮説をテストするという事が
前提とされた議論だ。
仮説をHとすると、その仮説から、実験にかけることの出来る ある命題Oが演繹されるとして議論されがちだった。
すなわち
H→O
で、Oが真だったら云々、偽だったら云々。
(反証主義参照)
こういう論法であった。
しかし、現実の科学においては、
ある特定の仮説のみからでは、何ら、
特別に実験にかけることの出来る命題を生み出す事はない。
少なくとも、初期条件や、他の補助仮説(例えば、測定機器に関する仮説)
と合わさって、ある実験にかけることの出来る命題を生み出す。
であるから、仮説をH、補助仮説をHn、
初期条件をT0とすると、
H∧H1∧..........∧Hn∧T0→O
である。
すると、Oが真であったとしても、確証されるのは、Hそのもではなく、
あくまで全体のH∧H1∧..........∧Hn∧T0である。
そうすると、特定の命題を実験から議論するのが難しい事が分かる。
ちなみに、Oが偽であったとしても、反証も起こり得ないという指摘にもなる。
Oが偽であるから、¬Oは真
H∧H1∧..........∧Hn∧T0→O
¬(H∧H1∧..........∧Hn∧T0→O)
¬O→¬H∨¬H1∨..........∨¬Hn∨¬T0
すなわち、最後の結果より、¬Oが真(Oが偽)なら、それぞれの命題(H、Hn、T0)のうち、どれか一つ以上が偽である という事が分かるだけで、それがどれかという事は決められない。
すなわち、仮説の反証すら行われない事が分かる。
分析的に科学の実像を捉えようという、プログラムには
大きな痛手ともいえる議論だ。