量子暗号を正しく理解しよう

実は量子暗号ってほとんど関心が無かったのですが、知っているライターさんが某雑誌にて、量子暗号の原理を紹介する時に「観測する時に系が変化するという不確定性原理」を使った手法であると書いていたんで、すごく気になってしまって思わず調べてしまいました。

それ自体はすごく面白い手法で、量子力学の業界では古くから論じられた「EPRのパラドックス」とか「ベル不等式」といったものが想定した系の状態を活用して、耐タンパー性を高くするという方法です。

何か、良く分からない複雑な計算をして、機密性を高めていると思ったのですが、基本的には盗聴の早期検出にそのポイントがあるんですね。

なんで、それ程気になったかというと、科哲の部屋のほうで解説している通り、不確定性原理は観測における系の攪拌とか系の変化とは無縁な原理なんですね。こんな嘘を雑誌が書いちゃいかんぞと思ったわけですが、なんと、日本の有名大企業がこぞってそういう嘘を書いてあるのでまたビックリ。

実際のところ、観測における系の変化とかに関しては、むしろ解釈上の問題の色合いが強く、ボルンルールとか射影公準といったものを付加することで処理をすることになります。

ちなみに、もとに記事の内容は量子暗号で長距離の実験に日本の企業が成功しましたって話しで非常に喜ばしいのですが、結局、量子暗号を自分で生み出したわけではなくて、ただのキャッチアップに過ぎないんだなぁということを、こういう基本の無知ぶりで証明していたりするわけです。SFチックな量子情報学の専門用語に躍らされているようじゃ意味なしですね。(用語自体はきちんと定義されていることですので、定義にさかのぼれば問題はないのですが)

今の暗号技術でも、既に欧米に支配されているのに、また量子暗号の時代にも、これまた欧米に支配されちゃうこと請け合いですね。科学技術立国で産学連携とかいっているけど、こういう基礎的な知見をおろそかにしているようでは駄目ですね。

参考までに
科学哲学の部屋
EPRのパラドックス
ベル不等式
不確定性関係