人権宣言集

一人でも多くの人が「人類の多年にわたる自由獲得の努力」の記録としての人権宣言に親しみ、それを読むことが必要である。(P.4)

いや、本当に。ちなみに、この本を買った動機は、風姿花伝と一緒。岩波文庫の白の1-1だったから。一回読んでそのまんまだった。又最近、人権問題が最近大騒ぎしているけれど、結局のところどんな代物じゃいと思ったので読んでみた。ベルギーの憲法が高く評価されているなど、細かな豆知識的に役立つこともたくさん。
読んでみて一番判るのが、大衆の人権って生まれつきで降って湧いていないんだよね。文字どおり人類の知恵の蓄積。

国王は、王権により、国会の承認なしに法律を停止し、または法律の執行を停止し得る権限があると称しているが、そのようなことは違法である。(P.82、イギリス、権利章典)

こんな感じが始めのうちの人権の意思表明なわけだ。

すべての権力は人民に存し、したがって人民に由来するものである。(P.109、アメリカ、ヴァジニアの権利章典)
法は、総意の表明である。すべての市民は、自身でまたはその代表者を通じて、その作成に協力することができる。(P.131、フランス、人および市民の権利宣言)

で、ようやくこんな感じで、大衆主権に立脚した法治国家を修めるという形で、ようやっと、人権の法による管理が始まったというわけ。日本の憲法はシンプルに過ぎるなと思うのは、たとえば、家族や子供に対する政策まで、結構細かに憲法に書き込まれているのだ。

子供の多い家庭は、これを埋め合わせる配慮を求める権利を有する。(P.203、ドイツ、ワイマール憲法)
労働の条件は、彼女の家庭的機能の遂行を許容し、ならびに母および幼児に対して、特別の適当な保護を保証しなければならない。(P.265、イタリア、共和国憲法)

また、そのほかにもこんな事まで明文化してたのか、と思うものも少なくない。

住居は不可侵である。(P.173、ドイツ、フランクフルト憲法)
学問およびその教授は、自由である。(略)家庭教育は、いかなる制限をも、受けない。(P.177、ドイツ、フランクフルト憲法)
市民は、休息の権利をもつ。(P.316、ポーランド人民共和国憲法)

家庭教育やらお家に勝手に入るなやら休ませろやら、こんなことすら自由じゃなかったってことなんだろうなぁ。
あと、共産主義国家って変だなぁとなんとなく思える。

社会の寄生的な層をなくし、経済を組織する目的で、全般的な労働の義務を実施する。(P.278、ロシア、一九一八の権利の宣言)

どこまでが寄生層?

「はたらかないものは、くうことができない」というスローガンをかかげる。(P.283、ロシア、ソヴェト共和国憲法)

そりゃそうだ。

すべての市民と平等に、選挙し、かつ選挙される権利を有する。(略)選挙における候補者は選挙区ごとに指名される。/候補者を指名する権利は(以下、組織名)(P.297、ソヴェト社会主義共和国同盟憲法)

でもね、被選挙権は自由と言いながら、指名されないと選挙に出れないって、変でない?

経済における生産者の自治ならびに共同体、市および地区における勤労人民の自治は、国の社会的および政治的機構の基礎である。(P.338、ユーゴスラビア連邦人民共和国基本法)

共同体まで経済原理の社会労働ではどうかと思うけど、生産活動が共助の原理の町内会チックではどうかと思うのですが。でも、やってやれないことはないってことだったんだよな。

人類の先進的な思想とポーランドの進歩的な思想の成果にもとづく科学、すなわち人民に奉仕する科学の全面的な発達について配慮する。(P.318、ポーランド人民共和国憲法)

で、思想の成果にもとづく科学って何ですか。科学は一応そういう思い込みの排除が重要なのではないかと。

まぁ、科学技術や文化は重要なので、憲法レベルにそれを書き込む国家もあれば、国際的な重要性は人権宣言にまでなる。

文化の発展ならびに科学的および技術的研究を推進する。(P.257、イタリア、共和国憲法)
何人も、自由に、社会の文化的生活に参加し、芸術を楽しみ、かつ科学の進歩とそれの恩恵にあずかる権利を有する。(P.407、世界人権宣言)

日本も小手先の科学技術立国ではなくこのレベルで本腰を入れていればまた違ったのかも。とはいえ、ここまで国際的に享受される豊かな人権という代物は自国内の権利では飽き足らないのか、対外国というところにも発展していく。

自国民を尊重させることを欲するゆえに、外国の国民を尊重し、征服を目的とするなんらの戦争を企図することなく、いずれの人民の自由に対しても、その実力を決して用いることがない。(P.160、フランス、一八四八年憲法)
いかなるドイツ人も、外国政府から称号または勲章を受領してはならない。(P.201、ドイツ、ワイマール憲法)
国外にある華僑の正当な権利および利益を保護する。(P.381、中華人民共和国憲法)

この辺からお国柄ってのも見えてくる。ここまで権利が拡張してくると、国内であってもその制御や調整が重要になってくる。

所有権は義務を伴う。その行使は、同時に公共の福祉に役立つべきである。(P.213、ドイツ、ワイマール憲法)
投票は、人的および平等であり、自由および秘密である。その行使は、公民的義務である。(P.268、イタリア、共和国憲法)
国民は、これ(憲法が保障する自由および権利)を濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のために利用する責任を負ふ。(P.392、日本国憲法)

権利は無用に振りかざしてもいけないし、その権利の根源になる投票行為を放棄してもいけないのだ。
とはいえ、そのベーシックなマインドは

「他人が自己になすことを欲しないことを他人になすな」(P.143、フランス、山嶽党憲法)

ということに他ならない。どどのつまり

何人もよい息子、よい父親、よい兄弟、よい友人、よい夫でなければ、よい市民ではない。(P.152、フランス、共和暦第三年の権利義務の宣言)

ということなのでしょう。(女性に関するものも当然付け加えて)