それでも物理はまわる―量子世界の不思議と魅力
教育者としてのわれわれの仕事は、ロウソクに火をともすことである(p.276)
この一文で閉められる同書は、量子力学の哲学の解説書である。が、同時に著者からの現代社会における科学の危機についてのメッセージでもある。正直、この本自体は、このジャンルの大家で、推薦の辞を書いている、並木氏が言うように、決して初学者や単なる一愛好家が数学的基礎もなく読んで、すらすらと正しく理解できるような代物ではない。
しかしながら、少しでも多くの人に科学の大陸地図にはまだ白い部分がある(p.161:著者の同僚のジャックの言葉)ということを、理解してもらうべく懸命に構成されている。とはいえ、オカルトに走れということではない。あくまでも科学という大陸の中で、現代社会における役割を果たすことの大切さと楽しさを閉めいている。
もし、量子力学の哲学に関心のない方であっても、同書の最終章(7章)だけでも、多くの大人に目を通してもらいたい。実に、そこに科学の本質と科学教育のあるべき姿がある。現代人必読の章とも言えるだろう。