CRM―顧客はそこにいる
すでに増補改訂版が出ているとのこと。読み返してみて、その価値のある書籍だ。奥付を見るとわずか数ヶ月で4版にも刷り増しているのが、当時から多くの支持を得た本なのだろう。
曖昧模糊とした顧客群に対し「模化」という概念提起は、古くて新しく今現在においても当てはまる。当然、そういう状況下の企業戦略として最も重要なのは
潜在需要を顧客の側に立って掘り起こすこと(同書p142)
なのは異論はないだろう。また、同時に、企業の方が出来ないことは出来ないという点も加味して、出来ることで、顧客の潜在需要を満たすものをしてあげる必要がある。
で、本書ではすでに起こった行動履歴データを元にしたセグメンテーションを軸に、こうした対処方法を挙げている。この時点で、本当の意味での顧客の潜在需要は掘り起こせるのか疑問である。
くわえて、企業にとって顧客に関する唯一最大の関心事は、「そのお客が儲かる客か否か」である(同書p86:そのすぐ後に「それだけではいけない」とコメントしている)ので、多分そういう観点で見れば、結局のところ、顧客の真の需要を喚起することではなく、持っているものを如何に顧客にほしがらせるか(若干手は加えるだろうけど)という、見た目の需要を満たすけれど、真の顧客の潜在需要を顧客の視点で探せる姿勢ではない。
他方で儲からなくてもつらくても、自分たちの商品・サービスを徹底的に使い、批判してくれる顧客についていく(p114)ということの重要性もわずかだが述べている。変な購買履歴データでドライにセグメンテーション化されることより、顧客は、こういう姿勢で接してくれたほうがありがたいはずだ。それが分かっているからこそ、同書ではそういう記載もある。
ただ、顧客の方も値段や瑣末なことで浮気をせずに「徹底的に使う」という覚悟が必要でもある。
どどのつまり、OneToOneは企業が顧客を一対一で対応することでもあるが、反対に顧客が企業に対して一対一できちんと付き合うことが重要なのである。企業が顧客をOne Of Themで扱ったしっぺ返しが、顧客が企業をOne Of Themで扱うことになっただけのような気がする。
そういう意味では、本書の主張するセグメント化では、こういう顧客の真の需要や心を引き戻すことは出来ないのではないだろうか。